3 二人は内宮に到着した。鳥居をくぐり、青々とした背の高い木々の中を進む。 「皇室が結婚するとき、お参りに来るらしいな」 「ふうん」 聖川の台詞に、もしかしてお前、意識していたのか?と疑問に思ったが、口には出さなかった。 実家に挨拶に来て欲しい。 一生一緒にいて欲しい。 以前、聖川の妹の結婚・妊娠をきっかけに、二人の関係が気まずくなったことがあった。 聖川は責任感が強い人間で、誰かのために力を発揮できる男だ。後継ぎの責任を放棄し、アイドルになったことには折り合いはついたようだけど、男と付き合って一生生きるのとはまた別の話だ。 けれど、彼は両方が欲しいと言った。家族も、神宮寺も。 傲慢な男だ。どちらも守ろうとして、どちらも失ったら、どうするつもりなのだろう。いつも最悪を想定して行動する神宮寺には理解できない。 聖川の実家に行くときを、神宮寺は想像した。 おたくのお子さんと交際させていただいております。はい、男です。はい、そちらとライバル関係の神宮寺財閥の三男です。はい、学生時代から同室で、こちらから半ば強引に奪いました。 できるわけ、ない! まともな神経なら、できるわけがない。聖川は少しおかしいのだ。肉親であっても、理解しあえないことはある。そこをうまくやるのが、互いの幸せに繋がる。 けれど。 そのうまくやれない、真っ直ぐさ、不器用さに、神宮寺は惹かれたのだった。 御堂を前に手を合わせ目を瞑る聖川の横顔を覗き見る。 その表情に決意と覚悟が見える。 大切に思われていると、わかっている。誠実に誓っていると、気付いている。 疑いは、覚悟の足りない神宮寺自身が作り出した弱さだ。 風が二人の間を吹き抜けた。 理想を追うこの強い男に、自分は追い付けるだろうか。 神宮寺は手を合わせ、せめてこの男の隣に立っていたいと、切に願った。 * 「今度はきちんと願えた」 足取り軽く、帰りのバスまでの道を戻る。 聖川はにこやかに神宮寺に話した。 「何を願ったんだ?」 「一生幸せにする。また、共に幸せになると。そのために、俺は努力を惜しまない、と。」 「お前、それは願いじゃない。誓いだろう」 神宮寺が言うと、聖川はそうだな、と柔らかく微笑んだ。 「なあ、お前は?神宮寺」 聖川の瞳の奥が揺らいだ、気がした。 「俺?俺は願えたよ」 ことさら、優しい声で伝えたかった。聖川の指を己のそれで絡めとり、彼にだけ聞こえるように、耳元で語りかける。 「お前の隣にいたいってさ」 自分だけの願いを、二人だけの願いに変える。聖川は安心したように息を吐く。 神様に背を向けて二人、今はこの指先で繋がっていたいと、神宮寺は思った。 and…? |