1 名古屋駅から特急列車に一時間半揺られ、伊勢市駅に到着した。 改札を出た神宮寺は、想像よりも閑散としている駅をぐるりと見渡す。 偶然二人のオフが重なったため、聖川の提案で伊勢に旅行することになったのだ。 聖川は東京での仕事を終えてから合流するため、神宮寺は二時間ほど早く前乗りした。先に旅館へチェックインを済ませておく予定である。 一泊二日の小旅行だが、二人きりで観光を目的に出かけるのは初めてのことだった。 神宮寺は小さな旅行カバンを肩にかけながら、駅から歩いて五分ほどの旅館へ歩みを進めた。 空は青く晴れ渡っており、東京よりも空気が澄んでいる気がした。時折、梅雨時前の湿った風が神宮寺の長髪をさらっていく。 晴れて良かったな。 神宮寺の足取りは軽い。 三重県伊勢神宮を参拝したい、と聖川に言われた時は、正直あまり興味がなかった。 以前は一緒に京都に行こう、なんて言っていたため、どうして伊勢神宮なのか疑問だった。しかし、京都となると、有無を言わさず彼の実家に連れてかれそうで嫌だったから、神宮寺は余計な話題は出さずに賛同した。 聖川も一泊くらいでちょうどよい距離と有名な観光地だから提案したのだろうと思っている。 あまり期待値は高くなかったが、いざ初めての土地に降り立つと、胸が高鳴ってくるから不思議だ。 しかも聖川との初めての旅行だ。浮かれないわけがない。 旅館に到着し、赴きのある雰囲気のロビーでチェックインを済ませる。 上品で感じのよい女将さんに部屋に案内された。 広くて美しく、窓からは海を一望できる部屋に、神宮寺は息を呑んだ。 あまり和風旅館に宿泊したことはなかったが、大いに満足だ。 貸し切りの露天風呂と、頼めば浴衣の貸し出しもあると説明を受けた。 聖川は和装が似合うから、夜にでも借りて散歩に行こうか。 これからの予定を思い巡らし、神宮寺は期待に胸を膨らませた。 * 「聖川!」 東京での仕事を終えた聖川を駅で出迎える。神宮寺に気付いた聖川は、改札を通り駆け寄ってきた。 「待たせて悪かったな」 「仕事だから仕方ないだろ。行こうか。」 「ああ」 「とても感じのよい旅館だよ」 聖川は機嫌のよい神宮寺の様子に顔を綻ばせた。 「楽しそうだな、神宮寺」 「ああ、楽しい」 神宮寺が素直に言うせいか、聖川は声を上げて笑った。仕事と移動の疲れは、どこかへ飛んでいったみたいだ。 「晴れて良かったな」 「ああ、そうだな」 そんな他愛ない会話をしていたら、あっという間に宿に到着した。 荷物を置いて、いよいよ観光の始まりだ。 → |