3 ひとしきり眠った後、軽く食事をして、寮を出た。食事をしたら体を動かす習慣がついている。 トキヤは寮を出てすぐ近くの噴水広場へ向かった。 今はちょうど昼休みの時間だろうか。校庭から生徒たちが騒ぐ声が聞こえる。 嵐が去った後の空は快晴だった。噴水の水しぶきが陽光にキラキラと反射する。 美しい風景に目を奪われながら、トキヤは浮かんでくるメロディを口ずさんだ。 歌が好きだ。けれど、ただ歌えればいいという訳ではなかった。 歌うことで、皆を幸せにしたい。笑顔にしたい。希望を与えたい。勇気付けたい。 けれど、いまの私の歌は、私自身ですら、救うことが出来ない。 トキヤは目を瞑り、頼りなく揺れる自分の声に耳を傾ける。 大好きな歌なのに、ずっと歌いたいのに、今はそれが辛い。 トキヤは声を出すのを止め、噴水横のベンチに腰を降ろす。 知らず知らず、ため息が溢れる。こんな歌では駄目だ。声量が足りない、リズムがずれている、感情が乗っていない。 不意に、物陰から草を掻き分ける音が聞こえた。 「っ?」 「トキヤ!やっぱりトキヤだ!」 後ろを振り返ると、同室で見知った友人である、音也がいた。昼休み中なのだろう、トキヤに気がつくと笑顔で近づいてきた。 「体調は大丈夫?」 「ええ、少しだけなら。ちゃんと言い付けは守っていますよ」 トキヤがいうと、えらいね!と声を弾ませた。 音也は太陽が似合うと思う。 素直で優しくて、感情がまっすぐで分かりやすい。 いつだってクラスの中心人物で、万人を惹き付ける魅力がある。 トキヤは彼こそがきっと、アイドルとしての才能を持っていると感じていた。自分にないもの、自分には絶対に出来ないことを、意識せずにやってのける。 「トキヤ?どうしたの?」 トキヤがまじまじと見つめたせいか、音也は不思議そうに覗き込んできた。トキヤは思わず息を呑む。 きっと、すごく羨ましくて、眩しかった。直視出来ないくらいに。 噴水の水音が、どこか遠くで聞こえる。トキヤはずっと胸につかえていた気持ちを、音也に投げ掛けようとしていた。 → |