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けたたましい携帯のアラーム音でトキヤは目を覚ました。


天井の白が頭を覚醒させる。頭の痛みは引いており、体調は大分回復していた。


体を起こし、伸びをする。視界の端でベッド脇で静かに眠る音也を捉えた。


きっとトキヤが寝てからも、看ていてくれのだろう。

額に乗っていたタオルは冷たかったし、あれだけ熱があったのに汗のベタつきも感じない。


音也の邪気のない寝顔に心が癒されるのを自覚しながら、トキヤは彼の肩を揺らした。


「……んう?」


「オトヤ、朝ですよ。あなたの携帯が鳴っています。この音、タイムリミットが近づいてるんじゃないですか」

普段からトキヤは目覚ましをかけない。そのためいつからか音也のアラーム音で朝の時間をなんとなく把握するようになっていた。


「ん……ああ!」


トキヤの声にハッと音也が体を起こした。


「おはよう、トキヤ。起こしてくれてありがとう。」


音也はにっこりと笑い、それから急いで学校に行く準備を始めた。


トキヤも着替えようとベッドから抜けると、音也がこちらを覗き込んできた。


「トキヤ、具合は?」


「もうすっかりよくなりました。これなら授業にも出れそうです。」


朝食をとる時間はないけれど……トキヤが続けると、音也が首を左右に振った。


「駄目だよ!今日くらいはゆっくりしてなよ」


「しかし…」


熱は下がっていたし、何もしないで寝ているのは性に合わない。音也はトキヤの両手を掴み頬を膨らませた。


「駄目!トキヤ、まだ声が掠れてるよ?ちゃんと治さないと、また倒れちゃうよ」


「……、わかりました。オトヤには敵わないですね。今日は1日、ゆっくりしています。」


音也の声と表情から、本気で心配してくれていると分かる。だからトキヤは頷いた。


「良かった。俺、早く帰るから、ちゃんと休んでるんだよ?」


「はいはい。私は子供じゃないんですから、そんなに心配しないでください。」


「子供じゃなくても心配するよ!……まあいいや。じゃあ、行ってきます!」

「行ってらっしゃい」


いつの間にか着替えを終えた音也が元気よく部屋を出ていった。


静まりかえった部屋で、トキヤはふっとため息を吐いた。
音也が普通の様子で良かったと安心したのだ。


昨晩、自分が拒絶したことで、取り乱した彼が心配だった。


言う通りに学校を休んだのは、そんな彼をまた見たくない、という理由からかもしれない。


何故、自分は二重生活を音也に隠しているのだろうか。


もちろん誰彼構わず言い回すつもりはなかったが、親しい人間にはバレても仕方ないくらいの思いがあった。現に、綻びは出てきてしまっている。

言ってしまえば、音也を泣かせることもないのに。


トキヤは布団に潜り込み、目を瞑った。


頭に、音也の歌声が響いた。普段音也が見せることのない、激しい感情が踊る。意識的か無意識かはわからないが、音也が隠している深淵。


隠した理由は、意地や、プライドからだろうか。未来が分からず迷子の、弱い自分をさらけ出したくなくて、トキヤは仮面を被っている。その虚勢が、無意識に出てしまったのかも。


音也にとって隠したいものは、悲しみや苛立ちのこもった激しい感情なのかもしれない。


けれど歌に表れたそれは、とても魅力的だった。

昨晩の音也の歌声と、普段の明るい笑顔が、トキヤの頭からはずっと離れなかった。






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