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その日はひどい嵐だった。音也は外でサッカーをすることも出来ないため、早めに翔たちと別れ、寮に戻った。


案の定、トキヤはいない。まだ、トキヤの秘密は聞けていないままだ。


音也は一人でいることが少し苦手だった。小さい頃から施設で育ち、同年代の仲間と過ごしていたからかもしれない。


誰もいない部屋で、強い雨風が容赦なく窓を叩く音に、一人でいる不安はいっそう高まった。


「……ちょっと、マサたちの部屋に行ってみようかな」


ついでに、トキヤのことについても少し聞いてみよう。


音也はそう思い立ち、自室を後にした。





マサとレンの部屋にお邪魔して、まずトキヤの所在について聞くと、やはり分からないという話だった。


「こんな嵐の日に、心配だな」


マサは丁寧にお茶を入れてくれた。普段あまり飲むことはないけど、口にすると気持ちが落ち着いた。


「うん…それに、いなくなるのは今日だけじゃなくて。帰りが遅いことがけっこう多いんだ。マサ、レン、何か知らない?」

聞くとマサは腕組みをして首を振る。


「神宮寺、何か知らないか?」


「うーん、俺もさっきから考えているんだが」


ダーツの羽を指で弄りながら、レンも頭を悩ませてくれる。


「レンはトキヤと同じクラスだよね?クラスでは何か、変わった様子とかない?」


「……ああ、そういえば」


レンはポン、と手のひらを合わせ、音也に向けて微笑みかけた。


「イッチーは普段の授業にも、いなくなることがあるよ。それも、俺と違って先生は何も言わないんだ」


「何か特別な事情があるということか」


マサが呟き、お茶をすする。レンはダーツの矢を的へと放つ。鈍い音を立て、矢は真ん中に深く突き刺さった。


「そっか…マサ、レン、ありがとう!昨日はこれくらいの時間に帰ってきたし、もうそろそろ部屋に戻るね」



「そうか。あまり役に立てず、すまない。」


「寂しくなったらいつでもおいで、イッキ。」


「ありがとう!二人ともまた明日!」


音也は元気よく挨拶を返し、二人の部屋を出た。

放課後だけじゃなくて、授業に出ないこともあるってことか……。


そこまで優遇される事情って、一体何なんだろう。


ますますわからなくなって頭をひねっていたら、自室へたどり着いていた。


「あ、トキヤ!」


ドアを開けると、ベッドの上に人影が見え、音也は声を上げた。


「オトヤ、」


か細い声に、音也はトキヤの異変に気付く。
急いで駆け寄ると、トキヤはびしょびしょに濡れていた。


「トキヤ、どうしたの?具合、悪いの?」


トキヤがシャワーも浴びずに横になるなんておかしいし、顔色も普段以上に青白い。


「トキヤ、とりあえず服、着替えよう」


濡れたままでは風邪を引いてしまう。音也は横たわるトキヤの服のボタンを外していく。


露になる白い胸板は鍛えられていて無駄がない。ゆっくりと上下するそこは少し、痛々しく映る。


身体に触れると、ひどく熱を持っていた。トキヤの辛そうな様子を見ると、既に発熱しているようだ。音也は心配に顔をしかめた。


「大丈夫、ですから…」

「駄目だよ!」


起き上がろうとするトキヤを止めて、音也は服を脱がせる。

温厚な音也の見たことのない剣幕に、トキヤは驚きの表情を見せた。


「風邪だって、放って置いたら死んじゃうことだってあるんだよ?着替えたら、寮長さんに体温計とか、薬とかあるか聞いてくるからね。」


「すみません、音也…」

観念したようにトキヤは力を抜いた。汗と雨に濡れた身体を丁寧に拭いた後、ジャージに着替えさせる。


「じゃあ、ちょっと待っててね。」


「ありがとうございます…」


トキヤを布団に寝かせ、音也は寮長の元へ向かった。


音也はずっと、苛立ちが収まらなかった。


トキヤの体調に気付かなかった自分自身に対して。


それから、体調を崩すまで身体を酷使するトキヤに対して。


トキヤの「秘密」を何が何でも暴きたい。


それは、彼を守るためでもある。


そんな強い感情に、音也は支配されていた。







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