4 その日はひどい嵐だった。音也は外でサッカーをすることも出来ないため、早めに翔たちと別れ、寮に戻った。 案の定、トキヤはいない。まだ、トキヤの秘密は聞けていないままだ。 音也は一人でいることが少し苦手だった。小さい頃から施設で育ち、同年代の仲間と過ごしていたからかもしれない。 誰もいない部屋で、強い雨風が容赦なく窓を叩く音に、一人でいる不安はいっそう高まった。 「……ちょっと、マサたちの部屋に行ってみようかな」 ついでに、トキヤのことについても少し聞いてみよう。 音也はそう思い立ち、自室を後にした。 * マサとレンの部屋にお邪魔して、まずトキヤの所在について聞くと、やはり分からないという話だった。 「こんな嵐の日に、心配だな」 マサは丁寧にお茶を入れてくれた。普段あまり飲むことはないけど、口にすると気持ちが落ち着いた。 「うん…それに、いなくなるのは今日だけじゃなくて。帰りが遅いことがけっこう多いんだ。マサ、レン、何か知らない?」 聞くとマサは腕組みをして首を振る。 「神宮寺、何か知らないか?」 「うーん、俺もさっきから考えているんだが」 ダーツの羽を指で弄りながら、レンも頭を悩ませてくれる。 「レンはトキヤと同じクラスだよね?クラスでは何か、変わった様子とかない?」 「……ああ、そういえば」 レンはポン、と手のひらを合わせ、音也に向けて微笑みかけた。 「イッチーは普段の授業にも、いなくなることがあるよ。それも、俺と違って先生は何も言わないんだ」 「何か特別な事情があるということか」 マサが呟き、お茶をすする。レンはダーツの矢を的へと放つ。鈍い音を立て、矢は真ん中に深く突き刺さった。 「そっか…マサ、レン、ありがとう!昨日はこれくらいの時間に帰ってきたし、もうそろそろ部屋に戻るね」 「そうか。あまり役に立てず、すまない。」 「寂しくなったらいつでもおいで、イッキ。」 「ありがとう!二人ともまた明日!」 音也は元気よく挨拶を返し、二人の部屋を出た。 放課後だけじゃなくて、授業に出ないこともあるってことか……。 そこまで優遇される事情って、一体何なんだろう。 ますますわからなくなって頭をひねっていたら、自室へたどり着いていた。 「あ、トキヤ!」 ドアを開けると、ベッドの上に人影が見え、音也は声を上げた。 「オトヤ、」 か細い声に、音也はトキヤの異変に気付く。 急いで駆け寄ると、トキヤはびしょびしょに濡れていた。 「トキヤ、どうしたの?具合、悪いの?」 トキヤがシャワーも浴びずに横になるなんておかしいし、顔色も普段以上に青白い。 「トキヤ、とりあえず服、着替えよう」 濡れたままでは風邪を引いてしまう。音也は横たわるトキヤの服のボタンを外していく。 露になる白い胸板は鍛えられていて無駄がない。ゆっくりと上下するそこは少し、痛々しく映る。 身体に触れると、ひどく熱を持っていた。トキヤの辛そうな様子を見ると、既に発熱しているようだ。音也は心配に顔をしかめた。 「大丈夫、ですから…」 「駄目だよ!」 起き上がろうとするトキヤを止めて、音也は服を脱がせる。 温厚な音也の見たことのない剣幕に、トキヤは驚きの表情を見せた。 「風邪だって、放って置いたら死んじゃうことだってあるんだよ?着替えたら、寮長さんに体温計とか、薬とかあるか聞いてくるからね。」 「すみません、音也…」 観念したようにトキヤは力を抜いた。汗と雨に濡れた身体を丁寧に拭いた後、ジャージに着替えさせる。 「じゃあ、ちょっと待っててね。」 「ありがとうございます…」 トキヤを布団に寝かせ、音也は寮長の元へ向かった。 音也はずっと、苛立ちが収まらなかった。 トキヤの体調に気付かなかった自分自身に対して。 それから、体調を崩すまで身体を酷使するトキヤに対して。 トキヤの「秘密」を何が何でも暴きたい。 それは、彼を守るためでもある。 そんな強い感情に、音也は支配されていた。 → |