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朝、目覚まし時計代わりの携帯のアラームが鳴り響いた。

音也は眠い目を擦りながら、大きな伸びをする。体が痛いと思ったら、机で課題をやりながら眠っていたみたいだ。


するりと肩から何かがずり落ちた。毛布だ。音也がいつも使っている、小さな時から欠かせないふわふわな毛布。


「おはようございます」

「トキヤ。おはよう」


トキヤは既に制服に着替えているところだった。

トキヤは無口で無表情だけど、いつも挨拶はきちんとしてくれた。ありがとう、ごめんなさいもちゃんと言える。

音也は施設で、挨拶や礼儀はきちんとしなさい、と厳しく教えられていた。そういう背景もあってか、トキヤの雰囲気を苦手という同級生もいたが、音也はそうは思わなかった。


遅く帰ってくるのに、遅刻もしないなんて、素直にすごいと思う。


音也は毛布を手に取りベッドに置いた。課題途中で寝てしまった自分に毛布をかけてくれるのは、ただ一人に決まっているだろう。


「トキヤ、毛布かけてくれた?」


「昨日は遅くまで頑張っていたようですね」


トキヤが少しはにかみ、二人を取り巻く空気が和らぐのを感じた。


今なら聞けるのではないか。昨夜聞きそびれてしまった、あのことを。

音也は思い、話を続けた。


「ねえ、トキヤ」


「はい?」


「トキヤって、いつも帰るの遅いよね」


音也は制服をクローゼットから取り出しながら、あくまで何ともないように振る舞う。


本当はすごく気になっているけれど、トキヤにそれを悟られたくはなかった。



「そうですか?」


「うん。昨日も、俺より遅かったでしょ。その前も。何かやっているの?」

音也はジャージを脱いで、制服のシャツを羽織る。トキヤは何も言わない。表情を伺うが、何の感情も読み取れなかった。

「なにか、とは?」


「うーん、バイトとか?」

「そんなところです」


「何のバイト?」


突っ込んだ質問をすると、眉が一度、ピクリと動いた。


「あなたには、関係ないでしょう」


トキヤは鞄を肩にかけ、部屋のドアノブに手をかける。音也があ、と思った時には遅かった。


「着替え。急がないと、遅刻しますよ」


忠告を投げ捨てて、トキヤは部屋の外を出ていってしまった。


やはりこの同室の男は、一筋縄ではいかない。



「くそー、逃げられた。」


音也は着替えも途中のまま、ベッドに体を投げ出した。


「どうして、こんなに気になるんだろう」


音也にも、もちろん知られたくないことはある。だから、他人が話さないことを無理やりにでも聞こうと思ったことはなかった。


けれど、トキヤの「秘密」は、気になって仕方がない。


それは、トキヤの「歌」にも、関係しているようで。


胸がツキンと痛む。何かから逃れるように、うつ伏せになると、頬がふわふわの毛布の感触に包まれる。


毛布。トキヤがかけてくれた。


「トキヤはやっぱり優しいね」


もやもやとした気持ちのまま呟くと、再び携帯のアラームがタイムリミットを告げたのだった。








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