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私は暗闇の中でもがいていた。現状に満足できず、状況を打開しようと意地を張っていた。未来が見えない不安に、押しつぶされそうだった。





一ノ瀬トキヤは現役人気アイドルと、アイドル専門学校の生徒として、二重生活を送っている。


バラエティやドラマの仕事が増え、自分が一番やりたかった歌の仕事が出来なかったためだった。

しかし、決死の覚悟で入学した早乙女学園でも、自信のあった「歌」に感情がないコンピューターのようだと評され、壁にぶつかっていた。


お世話になっている事務所の社長やマネージャーを騙していることや、先の見えない精神的な不安、そして仕事と両立することの肉体的疲労により、トキヤの体は悲鳴をあげることとなってしまった。


その日はひどい嵐の日だった。


仕事が終わり学園寮の自室に戻ると、立ち眩みを覚え、そのままベッドに倒れ込んでしまった。


同室の底抜けに明るい少年、オトヤに発見され、介抱してもらった。後で迷惑をかけてしまったことを謝罪しなければいけない。


熱のせいか朦朧とした意識の中で、歌が聞こえた。


歌詞はなく、メロディーだけだ。


普段は明るく踊るような声が、今は何かを自制したように固い。

けれど懸命に、何かを鼓舞するような力強さも含んでいる。


音也だ。トキヤはその歌声に胸が震えた。心臓を押さえつけられたような、嫌な感覚だ。


普段の音也の「陽」のイメージとは全く違った。歌が好きで好きで仕方ないといった、楽しくて自然に沸き上がる感情とは違った。


むしろ苦しくて、疑問で、それでも投げ掛けずにはいられない、対象を意識した思いやりが溢れていた。


音也には、これだけ複雑な感情を表現する力があるのか。


彼を軽んじていたわけではない。けれど、純粋な感動の後は猛烈な焦りと嫉妬が生まれた。


意識がなくなるその時まで、自分の秘密を問いただしてきた音也の泣いているような表情が頭から離れなかった。





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