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小さい時から、俺が笑うとみんな優しくしてくれた。だから、こんな風に手も足も出ない感覚は生まれて初めてだ。




今日はアイドル育成専門学校である早乙女学園の入学式だ。


小さい頃から歌うことが大好きで、どんなに辛いことがあっても歌うと笑顔になれた。


だから、自分が歌うことで、他のみんなのことも笑顔に、幸せにしたい。


そんな思いを持って、音也はアイドルを目指すことにした。



これからどんなことを学べるんだろう。

どんな出会いがあるだろう。


期待に胸を弾ませながら、音也は学園の中へ歩みを進めた。


学園指定の寮に案内され、荷物を解いていると、ゆっくりと部屋の扉が開いた。


色白の少年が鋭い目で部屋の周りを見渡し、最後に音也の方を見た。


「俺、一十木音也!今日からよろしくね!」


「……一ノ瀬トキヤです。よろしくお願いします」


立ち上がり、音也が握手を求めると、トキヤは仏頂面のまま、小さく会釈をするだけだった。


音也は予想外の態度に気の抜けた表情を浮かべてしまう。トキヤはその横をするり通り抜け、淡々と荷ほどきを始めた。音也は行き場のなくした手のひらで頭を掻いた。


どこから来たの?

どうしてこの学園に入ったの?

どんな音楽が好き?

どんな楽器が好き?


色々な質問をしたかったけど、出鼻を挫かれてしまった。


音也は、誰とでも仲良く出来る性格だから、当然寮の同室の人間とも仲良く出来る自信があった。

チラリとトキヤに目をやると、ぶつぶつと何かを呟きながら、段ボールから荷物を取り出している。


綺麗で、人形のような顔立ちをしている。真面目そうで、近寄りがたい雰囲気だ。


でも、悪い人じゃなさそう。


音也はトキヤの横に座り、思案顔を覗き込んだ。


「トーキヤ!手伝おうか。」


「!一十木さん」


トキヤは目を見開き、音也を見る。

その表情は年相応にも見えた。


「結構です。あなたもまだ残ってるんじゃないですか」


「そうなんだけど…ちょっと飽きちゃったから。あ!音也って呼んで欲しい。ダメかな?」


「構いませんが……」


トキヤは困ったように眉を寄せる。

えーと、これはオッケーってことかな?


音也は満面の笑みを浮かべ、トキヤの手をぎゅっと掴む。


「やったあ!呼んでみて!」


「!……オトヤ。邪魔です。」


「えっ!ひどい!」


「オリエンテーションが午後からあるでしょう。それまでに終わらせたいんです」


「はーい。」


音也は渋々トキヤの手を開放する。


名前も呼んでくれたし、色々な表情も見れた。やっぱり、悪い人じゃなさそうだ。


音也はホッと胸を撫で下ろし、自分の荷ほどきを再開した。








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