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数ヶ月振りの京都駅に、特別な感慨は沸かなかった。


桜の季節は随分前に終わり、観光シーズンとはずれているため、それほどの混雑はない。

聖川は小さなボストンバックを肩に下げ、実家へ向かう電車へ乗り込んだ。


電車の窓枠から見える景色をぼんやりと眺める。
ちょうど仕事に空きが出来たため、一泊二日の強行スケジュールの旅だ。

中学まで過ごした街だから、やはり懐かしさや安心感はある。


けれど、それだけだ。考えてみると、あと五年もすれば、東京で過ごす時間も同じくらいになる。
神宮寺とも、そうだ。


聖川は誰もいない隣の席に一度視線を移し、再び景色へと戻した。



「真斗坊っちゃん!」


「じい!久しぶりだな」

実家に着くと、世話係であったじいが出迎えてくれた。

荷物を自室に置き、家族が集まっている居間へと向かう。

妹は実家の近くに住んでいるため、今日は聖川のために訪問してくれていた。

「お兄ちゃん、久しぶり!」

「ああ、結婚式以来だな」

妹は元気そうで聖川は安心した。

安定期に入り、着々とお腹の中の赤ちゃんは成長しているという。


妹の話に頷く父は白髪が増えており、老いを感じた。

父の隣で微笑む母も、随分と皺が増えた。


離れて住んでいるから、尚更そう感じるのだろう。時間は確実に流れており、家族の関係も変化している。


お茶をすすりながら考えていると、妹が思い出したようにあるものを取り出した。


「これ、もうちゃんと人の形だと分かるのよ」


病院で撮影されたエコー写真だった。


「ああ、すごいな」


聖川は写真を覗きこむ。風船型の腹の中に、確かに人の形が陰影のように存在した。


こうして目で確認すると、生きているのだ、と実感する。妹という見知った人間の腹の中で、今なお形作られているのだ。


『俺は子供を産めない』


聖川はなんだか圧倒されて、声を出せなかった。そして、逃げるように東京を出る前に、神宮寺が投げ掛けてきた言葉を思い出していた。



「知っている。俺だって産めない。」


その時、聖川は苛立ちのまま、答えた。

当然だ。だから何だというのか。自分たちの関係は、そんなことで壊れるくらい脆いものなのか。


「とにかく、俺はまたこの場所に帰る。俺は一生お前と生きるんだから。……行ってくる」



そう言って、聖川は玄関の扉を閉めた。実際、神宮寺から逃げたも同然の行動だった。



聖川は再びエコー写真に目を向けた。


(俺は、一生という言葉を、永遠という思いを、どれだけ軽々しく使ってきたのだろう。)


生命の神秘をまざまざと見せつけられて、家族の変化を感じて。聖川は、自省せざるを得なかった。








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