6 数ヶ月振りの京都駅に、特別な感慨は沸かなかった。 桜の季節は随分前に終わり、観光シーズンとはずれているため、それほどの混雑はない。 聖川は小さなボストンバックを肩に下げ、実家へ向かう電車へ乗り込んだ。 電車の窓枠から見える景色をぼんやりと眺める。 ちょうど仕事に空きが出来たため、一泊二日の強行スケジュールの旅だ。 中学まで過ごした街だから、やはり懐かしさや安心感はある。 けれど、それだけだ。考えてみると、あと五年もすれば、東京で過ごす時間も同じくらいになる。 神宮寺とも、そうだ。 聖川は誰もいない隣の席に一度視線を移し、再び景色へと戻した。 「真斗坊っちゃん!」 「じい!久しぶりだな」 実家に着くと、世話係であったじいが出迎えてくれた。 荷物を自室に置き、家族が集まっている居間へと向かう。 妹は実家の近くに住んでいるため、今日は聖川のために訪問してくれていた。 「お兄ちゃん、久しぶり!」 「ああ、結婚式以来だな」 妹は元気そうで聖川は安心した。 安定期に入り、着々とお腹の中の赤ちゃんは成長しているという。 妹の話に頷く父は白髪が増えており、老いを感じた。 父の隣で微笑む母も、随分と皺が増えた。 離れて住んでいるから、尚更そう感じるのだろう。時間は確実に流れており、家族の関係も変化している。 お茶をすすりながら考えていると、妹が思い出したようにあるものを取り出した。 「これ、もうちゃんと人の形だと分かるのよ」 病院で撮影されたエコー写真だった。 「ああ、すごいな」 聖川は写真を覗きこむ。風船型の腹の中に、確かに人の形が陰影のように存在した。 こうして目で確認すると、生きているのだ、と実感する。妹という見知った人間の腹の中で、今なお形作られているのだ。 『俺は子供を産めない』 聖川はなんだか圧倒されて、声を出せなかった。そして、逃げるように東京を出る前に、神宮寺が投げ掛けてきた言葉を思い出していた。 「知っている。俺だって産めない。」 その時、聖川は苛立ちのまま、答えた。 当然だ。だから何だというのか。自分たちの関係は、そんなことで壊れるくらい脆いものなのか。 「とにかく、俺はまたこの場所に帰る。俺は一生お前と生きるんだから。……行ってくる」 そう言って、聖川は玄関の扉を閉めた。実際、神宮寺から逃げたも同然の行動だった。 聖川は再びエコー写真に目を向けた。 (俺は、一生という言葉を、永遠という思いを、どれだけ軽々しく使ってきたのだろう。) 生命の神秘をまざまざと見せつけられて、家族の変化を感じて。聖川は、自省せざるを得なかった。 → |