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ツアー前になると忙しいが、最近の聖川は比較的自由な時間が取れていた。
主な仕事がラジオ、バラエティー、ドラマなどで、撮影スケジュールが定期、短時間に収まっているためだ。

神宮寺の方は舞台の稽古があり、遅くまで帰宅しないことが度々あった。

聖川は夕飯の鍋用に野菜を切りながら、最近あまり神宮寺と会話が出来ていないな、と考えていた。

仕事に余裕がないときは気付かないが、こうして時間があるときは、どれだけ自分の思いを伝えていないかと実感する。

好きだ、とか、愛している、とか、一緒にいてくれてありがとう、とか。

当たり前になっていて、妙な気恥ずかしさもあり、きちんと言えてないことが多い。


今日はちゃんと会話をしよう。

聖川はそう決意し、具材を鍋に入れた。と、玄関が開く音がした。





「お帰り、神宮寺」


「ん、ただいま」


ジャケットを脱ぎながら神宮寺がリビングの扉を開けた。今回の舞台はアクロバティックな演出もあるようで、疲れている様子だった。


「お、いい匂いだと思ったら、鍋かあ」


「ああ、野菜も取れるしいいだろう?季節外れだが」


「まだちょっと寒いしな」


立春は過ぎたが、まだ風が強く肌寒さを感じる季節だった。

神宮寺はほっとしたように微笑むため、聖川も少し安心した。


「一緒に食べるの久しぶりだな」


白菜に火を通るのを待ちながら、向かいに座る神宮寺に話しかけた。


「そうだな。聖川は最近は時間ありそうだな」


「ああ。稽古が入るときついよな」


「そうなんだよ、しかも結構厳しい監督でさ、」

神宮寺が稽古場であったことを話し出す。聖川は頷きながら耳を傾ける。神宮寺があまり仕事の話をすることはないので、新鮮だった。きっと、本当に少し、大変なんだろうと分かる。


「明日も早いのか?」


「いや、稽古だけだから10時だな」


「あ、もう食えるぞ」


「やった!いただきまーす」


神宮寺が手を合わせ、箸を手に取る。空腹だったようで、それ以降はほぼ会話もなく、テーブルに並べられた料理が瞬く間に二人の胃に収まっていった。


明るい照明の暖かい部屋で、グツグツと食材を煮込む音に、美味しそうな匂いが広がる。向かいにはうまい、と嬉しそうに食べる神宮寺の表情。


やはり、二人で食べる夕食は何倍も美味しいと、聖川はしみじみと思った。






寝室で台本を読んでいると、シャワーを浴び終えた神宮寺が入ってきた。


「ドラマ?」
「ん?ああ。」


「聖川、明日早いの?」


神宮寺が髪の毛を拭きながら、ベッドに腰をおろす。その姿にドキリとした。


「いや、俺も10時入りだな」


台本を閉じ、聖川は神宮寺の横に座る。二人分の重さにベッドのスプリングか軋んだ。


「ふうん、」


神宮寺が唇だけで微笑しながら、聖川の方に体を寄せてきた。まだ濡れた長めの髪が、聖川の頬にかかる。


しばらくすれ違いの生活が続いていた。つまり、こういったことも久しぶりなわけで。


聖川はごくりと唾を飲み込んだ。


「なに、緊張してんの?マサト」


神宮寺がからかうように耳朶を噛み、聖川はそのままベッドに押し倒された。


「っ、神宮寺」


「ホント、久しぶりだな。やり方忘れそう」


「余裕だな」


神宮寺のジョークに吹き出しながら、聖川は彼の背中に腕を回す。


「なあ、神宮寺」


「ん」


「愛している」


聖川が真剣に囁くと、神宮寺は虚を突かれた表情をした。


「どういう意味の表情だ」
「いや、びっくりして」

まだ、信じられないといった顔をするので、聖川は薄く開いたままの唇に甘く噛みついた。


「最近、伝えていないと思ってな。愛している。好きだ。お前が側にいてくれて、本当に感謝している。」



「な、なに言ってんだよ。いきなり。動揺する。お前らしくない」


神宮寺はようやく聖川の言葉の意味がわかったようで、目元を赤く染めて首を左右に振った。

「いつも思っている。というか、お前よりは、俺は口にしていると思うぞ。若い頃から。」


「それは確かに、そうだが」


「なあ、お前はどうなんだ?神宮寺?」


聖川は神宮寺を見上げながら、腕を伸ばす。触れた頬は風呂上がりのせいもあってか、心なしか熱っぽい。


「お前、そういうのはずるい」



「すまない。だが、俺だって不安になるんだ…」


わざと甘えるように呟くと、神宮寺は体を倒し、聖川の肩口に顔を押し付けた。


「俺だって愛している。馬鹿…」拗ねた声が可愛らしい。

「ありがとう…」

聖川は充足感のまま、神宮寺をいっそう強く抱きしめた。





「くっ、……ぁ」


神宮寺の声はよく、低音でセクシーだ、と表現される。しかし今は、高く掠れていて色っぽいと、聖川は考えていた。


「聖川…もう…」


繋がった箇所はぎゅうぎゅうと聖川を締め付け離さない。熱い内壁が小刻みに収縮し、限界が近いことが見て取れた。


「もうイくか?いいぞ」


「や…一緒に…」

後ろから抱きしめる形で繋がっていた。神宮寺はいやいやと後ろを向いて、聖川にキスを求める。
聖川も限界が近かった。しかし、まだこのまま繋がっていたいと思う。


「俺はもう少しこのままでいたい。だめか?」

素直に言って舌を絡めると、内壁がまた締まった。神宮寺自身に手を伸ばし、扱こうとすると、両手で阻止されてしまう。


「神宮寺、愛している…」


「っ、ぁ…馬鹿…あ」


拒絶された手をそのまま胸の突起へ移動させ、もみこみながら引っ掻いた。一際深くへ腰を推し進めると、神宮寺は声を漏らしながら何度目かの射精をした。

頬には涙が伝っていた。薄く開いた唇からは、甘い吐息が漏れ、肩が規則的に揺れる。その扇情的な様子に、聖川は自身に熱か集まることを自覚した。





いつもより長い情時だった。神宮寺はベッドの上で脱力している。


「お疲れさま」


「ああ、本当にな」

水を渡すと、神宮寺が笑って受けとる。良かった、怒っているわけではないらしい。神宮寺は快楽に忠実だ。だから、本気でよくなかった時は本気で機嫌が悪い。そうなった時は、少し怖い。


「なあ、聖川。お前…」

「どうした?」


不意に真面目な声で名前を呼ばれたので、気になった。しかし、タイミング悪く聖川の電話が鳴った。


「すまない、妹からだ」

「いや、いいよ。出ろよ」


神宮寺が肩をすくめた。聖川は頷き、通話ボタンを押した。




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