4 ツアー前になると忙しいが、最近の聖川は比較的自由な時間が取れていた。 主な仕事がラジオ、バラエティー、ドラマなどで、撮影スケジュールが定期、短時間に収まっているためだ。 神宮寺の方は舞台の稽古があり、遅くまで帰宅しないことが度々あった。 聖川は夕飯の鍋用に野菜を切りながら、最近あまり神宮寺と会話が出来ていないな、と考えていた。 仕事に余裕がないときは気付かないが、こうして時間があるときは、どれだけ自分の思いを伝えていないかと実感する。 好きだ、とか、愛している、とか、一緒にいてくれてありがとう、とか。 当たり前になっていて、妙な気恥ずかしさもあり、きちんと言えてないことが多い。 今日はちゃんと会話をしよう。 聖川はそう決意し、具材を鍋に入れた。と、玄関が開く音がした。 * 「お帰り、神宮寺」 「ん、ただいま」 ジャケットを脱ぎながら神宮寺がリビングの扉を開けた。今回の舞台はアクロバティックな演出もあるようで、疲れている様子だった。 「お、いい匂いだと思ったら、鍋かあ」 「ああ、野菜も取れるしいいだろう?季節外れだが」 「まだちょっと寒いしな」 立春は過ぎたが、まだ風が強く肌寒さを感じる季節だった。 神宮寺はほっとしたように微笑むため、聖川も少し安心した。 「一緒に食べるの久しぶりだな」 白菜に火を通るのを待ちながら、向かいに座る神宮寺に話しかけた。 「そうだな。聖川は最近は時間ありそうだな」 「ああ。稽古が入るときついよな」 「そうなんだよ、しかも結構厳しい監督でさ、」 神宮寺が稽古場であったことを話し出す。聖川は頷きながら耳を傾ける。神宮寺があまり仕事の話をすることはないので、新鮮だった。きっと、本当に少し、大変なんだろうと分かる。 「明日も早いのか?」 「いや、稽古だけだから10時だな」 「あ、もう食えるぞ」 「やった!いただきまーす」 神宮寺が手を合わせ、箸を手に取る。空腹だったようで、それ以降はほぼ会話もなく、テーブルに並べられた料理が瞬く間に二人の胃に収まっていった。 明るい照明の暖かい部屋で、グツグツと食材を煮込む音に、美味しそうな匂いが広がる。向かいにはうまい、と嬉しそうに食べる神宮寺の表情。 やはり、二人で食べる夕食は何倍も美味しいと、聖川はしみじみと思った。 * 寝室で台本を読んでいると、シャワーを浴び終えた神宮寺が入ってきた。 「ドラマ?」 「ん?ああ。」 「聖川、明日早いの?」 神宮寺が髪の毛を拭きながら、ベッドに腰をおろす。その姿にドキリとした。 「いや、俺も10時入りだな」 台本を閉じ、聖川は神宮寺の横に座る。二人分の重さにベッドのスプリングか軋んだ。 「ふうん、」 神宮寺が唇だけで微笑しながら、聖川の方に体を寄せてきた。まだ濡れた長めの髪が、聖川の頬にかかる。 しばらくすれ違いの生活が続いていた。つまり、こういったことも久しぶりなわけで。 聖川はごくりと唾を飲み込んだ。 「なに、緊張してんの?マサト」 神宮寺がからかうように耳朶を噛み、聖川はそのままベッドに押し倒された。 「っ、神宮寺」 「ホント、久しぶりだな。やり方忘れそう」 「余裕だな」 神宮寺のジョークに吹き出しながら、聖川は彼の背中に腕を回す。 「なあ、神宮寺」 「ん」 「愛している」 聖川が真剣に囁くと、神宮寺は虚を突かれた表情をした。 「どういう意味の表情だ」 「いや、びっくりして」 まだ、信じられないといった顔をするので、聖川は薄く開いたままの唇に甘く噛みついた。 「最近、伝えていないと思ってな。愛している。好きだ。お前が側にいてくれて、本当に感謝している。」 「な、なに言ってんだよ。いきなり。動揺する。お前らしくない」 神宮寺はようやく聖川の言葉の意味がわかったようで、目元を赤く染めて首を左右に振った。 「いつも思っている。というか、お前よりは、俺は口にしていると思うぞ。若い頃から。」 「それは確かに、そうだが」 「なあ、お前はどうなんだ?神宮寺?」 聖川は神宮寺を見上げながら、腕を伸ばす。触れた頬は風呂上がりのせいもあってか、心なしか熱っぽい。 「お前、そういうのはずるい」 「すまない。だが、俺だって不安になるんだ…」 わざと甘えるように呟くと、神宮寺は体を倒し、聖川の肩口に顔を押し付けた。 「俺だって愛している。馬鹿…」拗ねた声が可愛らしい。 「ありがとう…」 聖川は充足感のまま、神宮寺をいっそう強く抱きしめた。 * 「くっ、……ぁ」 神宮寺の声はよく、低音でセクシーだ、と表現される。しかし今は、高く掠れていて色っぽいと、聖川は考えていた。 「聖川…もう…」 繋がった箇所はぎゅうぎゅうと聖川を締め付け離さない。熱い内壁が小刻みに収縮し、限界が近いことが見て取れた。 「もうイくか?いいぞ」 「や…一緒に…」 後ろから抱きしめる形で繋がっていた。神宮寺はいやいやと後ろを向いて、聖川にキスを求める。 聖川も限界が近かった。しかし、まだこのまま繋がっていたいと思う。 「俺はもう少しこのままでいたい。だめか?」 素直に言って舌を絡めると、内壁がまた締まった。神宮寺自身に手を伸ばし、扱こうとすると、両手で阻止されてしまう。 「神宮寺、愛している…」 「っ、ぁ…馬鹿…あ」 拒絶された手をそのまま胸の突起へ移動させ、もみこみながら引っ掻いた。一際深くへ腰を推し進めると、神宮寺は声を漏らしながら何度目かの射精をした。 頬には涙が伝っていた。薄く開いた唇からは、甘い吐息が漏れ、肩が規則的に揺れる。その扇情的な様子に、聖川は自身に熱か集まることを自覚した。 * いつもより長い情時だった。神宮寺はベッドの上で脱力している。 「お疲れさま」 「ああ、本当にな」 水を渡すと、神宮寺が笑って受けとる。良かった、怒っているわけではないらしい。神宮寺は快楽に忠実だ。だから、本気でよくなかった時は本気で機嫌が悪い。そうなった時は、少し怖い。 「なあ、聖川。お前…」 「どうした?」 不意に真面目な声で名前を呼ばれたので、気になった。しかし、タイミング悪く聖川の電話が鳴った。 「すまない、妹からだ」 「いや、いいよ。出ろよ」 神宮寺が肩をすくめた。聖川は頷き、通話ボタンを押した。 → |