10 聖川が神宮寺のシャツのボタンを一つ一つ丁寧に外していく。 神宮寺はその様子を見て緊張が高まった。 レディとの経験はあるが、男との経験はない。話に寄ると後ろを使うそうだが、いまいち現実感がない。 「神宮寺…」 聖川が再び、口づけをしてくる。神宮寺はその唇を割り開いて、奥の舌を強く吸った。 「ん…」 神宮寺のキスに答えるように、聖川の舌が口腔の奥まで入ってくる。 押し付けられた口唇を強く吸うと、卑猥な水音が耳に届いた。 気がつくとシャツのボタンは全て外され、肩からするりと脱がされた。 聖川の唇が名残惜しそうに離れ、首筋を甘噛みされる。 「ん、」 神宮寺は聖川の体を引き寄せた。 背中に腕を回し、ぎゅっと思い切り抱きしめる。 「神宮寺、これでは触ることが出来ないぞ」 聖川が微笑みながら言う。緊張した空気が少し和らいだ。 「いいんだよ、なあ、もう少しこのまま……」 体を密着させると、聖川の体温を感じて心地よかった。トクントクンと、互いの心音が重なっていくように感じる。 聖川は緊張した身体を弛緩させ、神宮寺の背中に腕を回した。 「好きだ。神宮寺。こうしているとよりそう感じるものだな」 「ん。俺も」 神宮寺は幸福感に涙を堪えながら、聖川にキスをねだる。聖川は優しく口づけた。 「ん……ぅ」 密着した腰に、固いものが当たり、思わず身動ぐ。 認識した瞬間、一気に現実味が増して、神宮寺は自分が興奮していることを自覚した。 「神宮寺……」 聖川は神宮寺の胸の突起に触れた。 形を確かめるように丁寧に撫でられる感覚に、神宮寺はもどかしさを感じる。 「聖川…」 固くなった聖川自身に手を伸ばすと、やんわりと制止された。 不満そうな顔をすると、聖川は弁明する。 「触れられると、すぐに達してしまいそうだから」 可愛いことを言う。神宮寺は聖川の手を掴み、指を絡めた。 「でも、これじゃあ日が暮れてしまうぜ?」 「よく、ないか?」 乳首をつねりながら、聖川が言う。 「悪くはない、けど、少し焦れったい」 神宮寺は絡めた指を猛った自身へと導いた。 「早く擦って欲しい」 素直に要求を口にすると、聖川は完敗だ、と唇で微笑んだ。 * 「んっ、く……は、ぁ…」 神宮寺は両足を大きく開き、聖川の愛撫を受け入れていた。 限界まで高められた屹立は、先走りと聖川の唾液から、淫隈に濡れそぼっている。 達するか達しないかぎりぎりのところで、聖川の舌は巧みに先端を掠めてくる。 「聖川、ぁ…、お前、本当に初めてか?」 「気持ちよいか?男同士のせいだろうか、勝手がわかる」 ちゅ、と先端を軽く吸われ、再び翻弄される間に、聖川は神宮寺の後口に指を差し入れた。 「くっ、」 突然の異物感に指を締め付けると、聖川は神宮寺の自身を口に含み、口唇を締め付け大きく上下した。 「っ、く、」 神宮寺の屹立は一気に溜まった精を吐き出してしまう。 「たくさん出たな」 「ん……やぁ…」 達したばかりの敏感な先端を吸われ、神宮寺は腰を浮かして抵抗する。しかし、抵抗むなしく、後ろを占拠していた指が、激しく動き出した。 「ぁっ、あ、…聖川!」 「一回達したからか?絡み付いてくる」 「馬鹿、っ、ぁあっ!」 おかしい。先ほどは異物感しか感じなかった指にじわじわと感じてしまう。神宮寺が大きく喘いだ後、羞恥に唇を両手で覆う。前を弄られたときとは違う、高い、女のような声が出てしまう。 「神宮寺、可愛い…」 聖川が神宮寺の耳朶を食んだ。中の指が二本に増やされる。低く、今は切迫した聖川の声に、尋常ではなく興奮する。可愛いなどと言われ、こんな状態になってしまうなんて、頭がおかしくなったのかもしれない。 「聖川…、もう…」 「まだだ、傷つけたくない」 宥めるように囁かれ、また震える。指は後ろを限界まで押し開き、前立腺を押し込んでいた。神宮寺は首を左右に振る。 「も、いいから、早くっ…」 身体から沸き上がる熱をどう対処すればわからず、自然と涙が頬を伝った。聖川にしがみつき懇願する。 「っ、すまない、神宮寺」 聖川が自身の唇を一度舐めたかと思うと、神宮寺から指を引き抜いた。そして、すぐさま自身をひくつく其処に押し付けると、強引に腰を進め、挿入を開始した。 「かっ、は……」 指とは比べものにならないような圧迫感に、神宮寺は目を見開いた。 「っ、」聖川が痛みに顔を歪めるのが見て取れた。しかし、力を抜くことは難しい。 「聖川っ、…」 「、すまない、引けない」 聖川が強引に其処を抉じ開けると、ピリッと何かが裂ける嫌な音が鳴った。 「つ、ぁ…」 じわりと痛みが広がって、神宮寺は目をぎゅっ瞑った。すると、聖川に抱きよせられた。 「難しいかもしれないが、力を抜いてくれ」 「う、く……」 聖川の言う通り力を抜くように努力するが、痛みに身体が強張り思うようにいかない。 聖川は神宮寺の萎えてしまった屹立を宥めるように愛撫する。そして、ゆっくりと隙間を埋めるように腰を進めた。 「っ、全部入ったぞ」 「んっ、」 聖川の言葉に妙な達成感と幸福感に包まれた。 体内を穿つ楔は熱くて固い。じわりと染みてくる痛みは快楽の種を有していた。 神宮寺は両手を聖川の背中に回す。聖川は神宮寺の額にキスを落とした。 「すまない、傷つけてしまって」 「いい。嬉しい。」 神宮寺は何故だか涙が出そうになる。聖川と繋がっている実感が、そうさせるのだろうか。 「動いて大丈夫か?」 まだ少し痛みはあったが、神宮寺は頷いた。 聖川がゆっくりと腰をスライドさせていく。神宮寺は聖川にしがみつきながら、唇を噛んだ。 内壁を擦られ、焼けるように熱い。全てを掻き乱されて、持っていかれてしまいそうだ。 頭がチカチカと、ハレーションを起こす。聖川が自分の体内にいる。そう考えるだけで、達してしまいそうだった。 「くっ、ぅ…はぁ…」 「神宮寺……!」 自然と漏れてしまう喘ぎをキスで絡め取られる。 聖川の律動と連動して、ベッドが軋んだ。だんだんと、動きは激しくなってくる。 「神宮寺、もう…」 聖川が吐息混じりに呟くと、内壁に熱い飛沫が勢いよく発せられた。 * 神宮寺はベッドの上で聖川と抱き合っていた。 後処理として丁寧に身体を拭かれ、切れてしまった箇所に軟膏まで塗ってもらった後である。 「本当にすまない。次回はもっとうまくやるから」 聖川は、神宮寺を傷つけてしまったことを深く反省しているようで、いつになく優しかった。神宮寺はそれが何だか面白く、それほど痛くはなかったのだが、好意に甘えることにした。 後処理も、ベッドメイクも、飲み物も、全て聖川に用意させ、軽くお姫様気分だ。 「神宮寺、許してくれ」 「別に怒ってないよ」 神宮寺がそう微笑むと、聖川は安心したように、抱き締めてきたのだった。抱き締め返す腕にはもう、ためらいはなかった。 「良かった。本当に」 「俺も」 多分、これからも何度も、不安になったり、すれ違ったりするだろう。 けれど、そうした困難も乗り越えていけるのではないか。 神宮寺は満たされた心でそう思えた。 「そうだ、聖川」 「ん?」 「桜。今度見に行こうな」 「そうだな。暖かくなるのが楽しみだ」 聖川が微笑む。いつも冷静な聖川が見せる温かな笑顔は雪解けを想像させる。 神宮寺は桜より薔薇が好きだ。クラシックよりラテンが好きだ。 けれど、正反対のこの男がしみじみと好きだと、春を待つこの季節に感じたのだった。 END main |