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電車から降りてすぐ、聖川は神宮寺の腕を掴んだ。神宮寺は反射的にそれを振り払う。


「っ、なんだよ」


「部屋で話したいことがある。行こう」


聖川は無理やり神宮寺の手を引き、速足で歩きだした。


周囲の人が気付く度に、不思議そうに振り返るため、神宮寺は恥ずかしさに俯いた。

けれど、不思議と怒りは沸かなかった。


神宮寺を掴む聖川の指は、力強いけれど、どこか優しい。


ちらりと背中に目をやると、いつも真っ直ぐな背筋が前のめりだ。


彼は話したいことがあると言った。


期待してもいいのか。
それとも、別れ話だろうか。


何度何度も、勝手に勘違いして、分かったときは恥ずかしさに落ち込んだけど。


もう一度、期待していいのだろうか。


神宮寺は前をいく聖川の背中をじっと見つめていた。





「もう一度言う。俺は、お前のことが好きだ」


部屋に戻ると聖川は息も切れ切れに告げる。


「言いたかったのはそれか」

「そうだ。でもそれだけじゃない。」

神宮寺は自室のベッドに座る。聖川も続いてその横に腰を下ろした。


「なんだよ」


「神宮寺、お前はどうなんだ」


「え?」

聖川の問いに神宮寺は間抜けな声を出した。聖川は構わず神宮寺に詰め寄る。


「お前は俺のことをどう思っているんだ。俺は、お前の考えがわからない」

「どうって…」


至近距離で見つめられて、たじろぐ。

聖川もそんな風に考えていたなんて、驚きだった。


「好きに、決まっているだろう。」


「そう、か。」


照れ臭さにぼそっと告げると、聖川は安心した顔を見せた。


「初めにお前が誘ってくれた後から、よそよそしい感じがして、嫌われたのかと思っていた」


「聖川…」


「お前と違い、俺はこういった関係には慣れていない。そのため、呆れられたか、何か変なことをしてしまったのかと、不安だった」

聖川が神宮寺の腕を引き、抱き寄せた。神宮寺の心臓がドクンと高鳴る。


「そんなこと、ない。そのあと誘ってくれて、嬉しかった…」


「良かった…」

神宮寺が震える声で答えると、聖川は腕の力を強くした。密着した身体に緊張しながらも、神宮寺は期待に心を奮わせた。


これは、いけるのでは!?


ついに、聖川とその、そういった行為を出来るのではないか。


神宮寺が意を決して、聖川の背中に腕を回そうとしたところ、聖川の身体が離れていった。



「え…」


「もし、神宮寺か嫌だったら、別れようとも考えていた。けれど、どうしてもそれは嫌だったから。ありがとう、神宮寺」

「いや、その」


こいつ、わかってない!

神宮寺は呆然とする。
聖川は安心した様子で、ベッドから立ち上がる。

「それじゃあ、俺は明日の予習を」


「ちょっと待て」


神宮寺は聖川の腕を掴んだ。すると、勢い余って体勢を崩してしまい、聖川が神宮寺に覆い被さる形となった。


「すまな、」


慌てて退こうとする聖川の胸元を掴み、神宮寺は告げた。


「お前、何にもわかってない。俺がどうして怒っていたか」


「神宮寺…」


「お前が何かしたからじゃない。何もしないからだと、さっき言っただろ。聞いてなかった?」


聖川は首を左右に振った。その瞳は不安げに揺れた。


「聞いていた。よくわからなかったんだ」



「こういうことだ」


神宮寺は聖川の身体引き寄せ、その唇にキスをした。


「っ!神宮寺」

不意討ちのキスに聖川は動揺していた。構わず神宮寺は続ける。


「俺の態度がよそよそしかったのは、お前でマスターベーションをしたからだ。お前はそんなこと、全く考えていないようで、むなしかった」


聖川は驚いた瞳でただただこちらを見つめている。


「悪いが俺の恋愛はこういうこと込みだ。それが嫌なら、別れてくれていい」


「神宮寺、お前の方こそ、俺のことをわかっていない」


聖川が低い声を上げ、神宮寺の唇に噛みついた。痛みに顔をしかめると、聖川は傷ついたような顔をしていた。



「っ、」


「俺だって、お前と…抱き合いたいと思っている。お前で、その…、自慰だってしている。俺だって、そういうこと込みで、お前のことが好きだ。別れるなんて言わないでくれ」


「じゃあなんで、抱いてくれなかったんだ。そういう態度、とってたんだが」


「それは、経験がないからよくわからなかった。というか、神宮寺はそれでよいのか?」


「えっ」


「抱いてくれない、と言ったよな。役割分担として、それも考えてしまう要因だった」


確かにそうだ。自然と自分が女性役だと考えていたが、何故だろう。

神宮寺は、自分ばかりが好きなのだと考えながら、素直になれなかった理由を思考した。


きっと、聖川を自分から求めることが、まるでこちらの方が思いが強いように振る舞うのが、嫌だったのだろう。


「俺は、お前の方から触れてくれるなら、どっちでも良かったんだ」


言葉にしたら、すっと納得が入った。


「すごい口説き文句だな」


聖川がいとおしげに、神宮寺の背中に手を回した。


「俺はお前を抱きたい。」


「気持ちよくしてくれよ」


「……善処する」


軽口を叩くと聖川は真面目に、今度は紳士的なキスを落とした。









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