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「神宮寺」

「うん?」

「手を繋いでいいか?」

またか。聖川の言葉にそう思った。しかし、周囲は人通りが多く、その要求には答えられないと思った。

神宮寺が首を左右に振ると、聖川はそうかと了承し、差し出していた手を引っ込めた。

「じゃあ、寮に帰るか」

「そうだな」


最寄り駅までの道をほぼ無言で歩いた。微妙な距離感が気まずく、神宮寺は聖川の誘いを断ったことを少し後悔した。


しかし、電車に揺られ窓の外をぼんやりと眺めていると、段々と聖川に対して苛立ちを感じてきた。


そもそもどうして一々聞いてくるのか。

繋ぎたいなら勝手に繋げばいい。

もし本当に嫌だったら、自分は同じくらい力を持っているのだから、抵抗するのに。


抵抗されたり、嫌がられたら嫌だから、などという理由ならば、それくらいの理性で押さえつけらる程度の衝動なのか。



横に座る聖川はむすりとした表情で真っ直ぐ外の景色を眺めている。


その横顔を見て、神宮寺は切なさに胸が苦しくなった。


結局、そうなのだ。


自分ばかりが聖川を求めている。

きっと、この男は、俺が別れたいと言ったらすぐに別れるだろう。


では、セックスをしたいと言ったらどうなのだろうか。


そういえば、直接聖川に言ったことはなかった。


どちらか、試してみようか。もしそれにより、関係が壊れてしまったとしても、どうでもよいことのように思えた。


神宮寺は投げやりな気持ちになりながら、聖川をもう一度その目で捕らえた。


今度は聖川はこちらの視線に気付く。


「どうした、神宮寺」


別れるか。セックスか。

どちらを聞くか。今が絶好のチャンス。


「聖川、」


「うん?」


聖川が目を細め、優しくはにかむ。


「お前は、俺のことをどう思っているんだ」


口をついて出た質問は、神宮寺にとっても予想外だった。


何を女々しいことを聞いているんだ!

羞恥にかっと熱くなる。

聖川は一瞬驚いたが、すぐに真剣な表情となった。


「もちろん、好きだ。何故?」


「嘘だ」


神宮寺は視線を下にそらした。一度言葉にしてしまうと、もう止まらなかった。


「何故?」

聖川は少し語気を強め、神宮寺に尋ねた。


「お前は俺がどれだけ我慢しているか知っているのか?」


「我慢?神宮寺、俺が何かしたなら謝る。だから少し落ち着いて…」

「何もしないからだろ!」


神宮寺が叫ぶと、周囲がしん、と静まった。神宮寺は気まずさにぷいっとそっぽを向き、足を組んだ。


聖川は最初は何かを話しかけようとしていたが、神宮寺の様子に黙りこんだ。


やってしまった。最悪だ。こんなことで取り乱すなんて、情けない。


自分はもっとスマートに出来ると思っていた。しかし、聖川を相手にすると、うまくいかない。


楽しくない恋愛なんて、意味がない。


もう潮時かもしれない。

しばらくして、電車が寮の最寄り駅に到着した。






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