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「神宮寺、今度の土曜日に、コンサートに行かないか?」

部屋でごろごろとしていたら、聖川が声をかけてきた。

図書館での出来事の後も、特に対した進展はなかった。


そのため、神宮寺は少し気持ちが浮上した。

聖川がピアノを師事してもらっている先生が伴奏をするオーケストラだそうだ。

神宮寺はあくまで冷静に了承したが、その日が楽しみで仕方なかった。





そして、二回目のデート当日。電車で30分揺られ、会場へと到着した。


普段からオーケストラに利用されている会場は、赴きのあるモダンなホールで、ステージ二階中央には豪奢なパイプオルガンが置いてあった。

聖川と後ろ寄りの席に座り、開演までの時間を待った。


「アイドルの曲は気分を明るくさせるものだが、クラシックは気分を落ち着かせるものだ。俺にとっては、どちらも聞き手を幸福にさせる、大好きな音楽だな」

「気分を落ち着かせるっていうのは同意だが、寝てしまいそうだ」


「寝てもいいぞ。そういう意図があるものもある」


聖川は微笑んだ。神宮寺としては、せっかく一緒に来たのだから寝るのはもったいない。

神宮寺はアップテンポで変化の激しい音楽が好きだ。

コンサートと言ったら周囲と一緒にノリを合わせ、音楽を共有する。

静かに自分一人で聞いているかのようなオーケストラは苦手な部類だった。


つくづく自分と聖川は違うな、と考えていると、演奏が始まった。


最初はテンポの早い曲だった。

指揮者の動きで、音の速さ、強さ、主旋律が目まぐるしく変化していく。

隣の聖川を見ると、真剣な表情でステージを見つめていた。


聖川は、この音楽から何を感じ、考えているのだろうか。


神宮寺は瞳を閉じて、音に集中する。

様々な楽器が特徴を色濃く残しながら、ハーモニーを奏でる。


弦楽器、管楽器、打楽器、それに、パイプオルガンの音色も加わって、重厚に表現されるメロディは、神宮寺に様々な感情を沸き起こさせた。


低く響くときは不安感を、高く軽やかなときは高揚感を、堂々と流れるときは安心感を……さらに、目を閉じているせいか、過去に経験した様々なシーンが思い起こされた。



母親のこと。家のこと。聖川のこと。夢のこと。どれも大切で、だからこそ難しい。


神宮寺は演奏を聞きながら、自由に思考を巡らせていた。





はっと気付いたときは、周囲から拍手の音が響いていた。


「神宮寺、眠っていたな」


「ん、ああ」


「いや、気にするな。退屈だったか?」


隣の聖川が心配げに聞くので、神宮寺は否定した。


「いや、なんか…すっきりした」


素直に思ったことを言う。聖川は安心したように微笑んだ。


本当に頭がすっきりしたような心地がし、来て良かったな、と思えた。


聖川と一緒でなかったら、絶対来ていないだろう公演だったであろう。しかし、よい刺激となった。



歌いたい。



そんな欲求が神宮寺の頭に過る。きっとよい音楽に触れたからだろう。


そんな風に思いながら、神宮寺は会場を後にした。





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