6 しばらく一人で気持ちを落ち着かせた後、座っていた席に戻る途中、本棚の上方に読みたい本を見つけた。 薔薇と音楽史というタイトルである。薔薇園を購入するほど、薔薇の花を愛している神宮寺にとっては、興味深いものだった。 高さのある本棚の二番目に位置し、身長が180センチを越える神宮寺でも手に取るのが難しい。 周りを見渡すと近くに脚立がないため、普段は席が埋まった場合のために置いてある丸椅子を利用することにした。 靴を脱ぎ椅子の上に立つ。あまり安定しないため、気をつけながら、気になった本へと手を伸ばした瞬間。 「あっ、」 危ない、と感じた時には体制を崩していた。椅子からと言えど、落ちたらけっこう痛そうだ。 瞳を閉じて衝撃に耐えようとしたら、ふわりと優しく抱き止められた。 驚いて目を開けると、聖川が後ろから自分の体を支えていた。 「聖川」 「危なかったな、大丈夫か?」 「どうして」 「少し遅かったから気になってな。良かった。怪我はないか?」 「ああ」 「良かった」 聖川は本当に安心したように、神宮寺の体をいっそう強く抱き締めた。 瞬間心臓が大きく高鳴った。 聖川の体温を感じる。首筋には吐息がかかる。 好きだ、と思った。少女のように意識し、緊張して体が動かない。 心音が聞こえてしまうのではないか、と不安になった。 「すまない、」 聖川がはっと神宮寺から体を離した。 神宮寺は名残惜しさを感じながら、肩をすくめた。靴を履き直しながら礼を言う。 「ありがとう、助かった」 「いや。その本」 「ああ、薔薇だから。これを取ろうとして、落ちそうになった」 「気をつけろよ」 目当ての本は無事に取れたため、二人はまた席に戻った。 まだ聖川に抱き締められた感触が残っている。平静を装ったが、神宮寺の胸は切なく疼いた。 もっと触れたい。触れられたい。けれど、浅ましい自分をさらけ出すのも怖い。 嫌われることが怖い。 こんな感情は初めてだと、神宮寺は思った。 → |