3
夕暮れ時、寮までの帰り道を歩いていた。

他愛ない会話の合間に、ふと沈黙が走った。

どうかしたのかと聖川の横顔に目をやると、聖川もこちらを見つめていた。


神宮寺の胸がドキリと高鳴る。


「神宮寺」


「なんだ」


「手を繋いでもよいだろうか」


「……」


聖川の質問に、思わず頬を染めて目をそらす。

馬鹿丁寧にそんなことを聞いてくる男がいるのか。いや、聖川らしいと言えば聖川らしいが……。


神宮寺は黙って手を差し出した。もちろん周囲を見渡して、人がいないことを確認してだ。


聖川は本当に無邪気に笑い、神宮寺の手をそっと握った。

まるでそのままワルツでも踊れそうな、軽やかな所作だ。


細くて長い指を優しくからめられて、神宮寺の心音は加速した。

触れた箇所がじわりと熱い。


何故だろう。

どう見ても、骨張った男の指だ。ピアノを弾いているせいか、節は神宮寺よりも突出している。

何故、この男に対しては、こんなにも切ない感情が沸くのだろう。

聖川は神宮寺の手を引き歩き出す。軽く力を込めると、同じような力で握り返される。


「明日も晴れるといいな」


聖川が横目でこちらを見る。神宮寺は、唇を強く引き結び、静かに頷いた。


どうかしている。


手を繋いだだけで、こんなにも緊張するなんて。

神宮寺は情けなさと恥ずかしさに逃げ出したい気分だった。


けれど意識したら最後、その温かさから離れることは出来なかった。





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