神宮寺は外出時に、変装するということはない。
サングラスをかけようが帽子を被ろうが、バレる時はバレるため、必要性を感じないのだ。

それに、もしバレたとしても、それをプラスに転換できるような対応ができると自信を持っていた。


しかし…。


今回ばかりは変装してくれば良かったと、神宮寺は少し後悔した。


「やっぱりー、マー様とは仲良いんですかぁ?」


「えー、やだあ!」


神宮寺は今、複数の女子高生に囲まれている。場所はスタジオ近くの本屋。手には聖川が表紙の女性誌を持っていて、傍目から見ればなんとも恥ずかしい光景だ。


「先月のマー様とのコラボ、見ました!なんか怪しかったよね!」

「ねー!」



集団になることで増長した女子高生たちの興奮ボルテージが上がる。神宮寺は周囲を気にしながら、彼女たちを制止する。

「しーっ、見てくれてありがとう。これからまたすぐ仕事だから行かなくちゃいけないんだ。これからも、応援よろしくね。」


ウインクをして両手を合わせると、女子高生たちは目を輝かせ、元気よく返事をする。


神宮寺は手にしていた雑誌を購入し、本屋を後にした。






『神宮寺レンさんのことをどう思っていますか?』


聖川のグラビアをまじまじと見るのは初めてかもしれない。

神宮寺はページをめくりながら思った。

一度、二人でテーマ性のある撮影をしたが、その時は最初はカメラを意識していたようだった。途中で緊張は抜けたみたいだったか。


しかし今回は、最初からカメラの向こうの読者をきちんと意識しているように映る。


赴きある日本家屋に、和装で出迎える青年。俗世にまみれていない、独特の危うさと強さを感じる。中性的な容姿と、たまに見せるはだけだ肩口と胸の合わせに確たる男性を感じ、聖川の魅力的な部分がよく出ている。


いい写真だ。俺もうかうかしてられないな。神宮寺がそう思いながらページを捲ると、インタビューが載ったページが目に入った。


(そういえば…)


以前、神宮寺の答えを切っ掛けに、聖川は悩みを抱えていた。

神宮寺は普段から思っていたことを言っただけだったのだが、聖川には衝撃だったようだ。


一本なのだ、彼は。


自分にとって大切なものも、生涯をかけて必要なものも、一つだけなのだ。一つだけで事足りて、それにかけることができる。


神宮寺は違った。

未だに一番大切なものは見つからない。アイドルへの道も、一生をかけて進んでいけるかわからない。聖川との関係についても、そうだ。実績がないから、自信がない。

それでも、聖川を見ていると、この恋が永遠のものであるかのように、錯覚できる。


『神宮寺レンさんのことをどう思っていますか?』

神宮寺はもう一度、聖川の答えに目を向ける。何度も何度も、その言葉の意味を噛み締める。


「最初は比べられることもあり、負けたくないライバルでした。しかし今は、同じ夢に向かい努力するかけがえのない存在です。」


神宮寺は唇を歪め微笑んだ。喜びと羞恥に、罪悪感と達成感に、複雑な感情がない交ぜになる。

「神宮寺さーん!時間です!」


「はい」

神宮寺は雑誌を閉じ、控え室を後にした。

「一本」だった男に、変化を与えたことを、誇りに思いながら。



endless story★★★

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