9 聖川は自室に入り、作詞をしていた。 普段はテーマや心情を整理しながら書くが、今回はフレーズか浮かんだ順に、言葉を紡いでいく。 「恋と夢 秤にかけるよりも大事なことが いくつあったろう」 どちらかを選ぶのではなく、ただ、いとおしいという気持ちを大切にしたい。 求める気持ちを肯定したい。 己を優先させることになっても、この情熱を伝えたい。 「ただ会いたくなっていく 声が指が心が 歌い出す」 受け入れてもらえないかもしれない。不安で壊れそうになる。それでも、不器用でも、無様でも、俺は追い続けよう。 「未来への可能性 檻に入れず 不器用だって My Dream 叫ぶよ」 夢を。神宮寺といる未来を。永遠に終わらない理想の関係を、彼とならはっきりとイメージできる。 聖川は筆を置き、書き上がった詞を眺めた。 普段の自分とは、違うテイストに仕上がったと感じた。バラードよりは、激しい曲調が合っているかもしれない。 神宮寺がいたから、自分の中から違う音楽か生まれた。これは、とても尊いことのように思えた。 部屋のドアが叩かれた。 「入っていいか?」 「ああ」 神宮寺がゆっくりと扉を開けた。手に持つお盆は日本茶と紅茶が乗っている。 「ありがとう」 「作詞?」 「そうだ。今度の」 「ああ、俺も書かなきゃな」 机にお盆を置き、湯飲みを手渡される。神宮寺もティーカップを手に、敷き布団の上に両膝をたてて座る。 「もう出来た?」 「ああ、大体は。これから推敲する。」 「真面目だな」 「神宮寺、お前レコーディング中に歌詞を変えるだろう?この前監督がぼやいてたぞ」 「ああー。いいフレーズが浮かんでな」 神宮寺はさして興味がないように欠伸をする。全くマイペースな奴だ。 「今日はこっちで寝るのか?」 「ん。」 いつの間にか、だらりと布団に寝転がる。聖川は畳に置かれたティーカップを机に移す。 きっとすぐに、静かな寝息が聞こえてくるだろう。 そうしたら、聖川は、神宮寺に優しく布団をかけてやる。 神宮寺の寝顔は、幼い子供のように邪気がないのだ。 妖艶に挑発したかと思えば、仕事に誇りを持ち堂々と取り込み、飄々とした姿勢の奥に思慮深さが潜む。 全くわからない奴だ。 聖川は、筆を持ちながら、小さく微笑んでいた。 → |