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二週間ぶりに神宮寺と二人で雑誌の撮影の仕事が入った。


女性ファッション誌の特集ページで、テーマは「ノンセクシャル」と聞いている。

「どういう撮影なんだろうな」

「さあ。まあ、今回は映像なんかも撮ってる人だし、けっこう面白いんじゃないかな」


メイク中に神宮寺とこんな話をした。モデルの仕事はあまり経験がないため、神宮寺がいて少し安心していた。


しかし。


(なんだ、この状況は!)


「マサトちゃあん!そんなんじゃ全然だめ!もっと切なく!それでいて熱く!」


ピンク色の個性的なサングラスをかけた監督が、くねくねとした動きで指示をしてくる。


「こう…ですか?」


「ちがあう!もっと近付いて!そうそう!レンちゃん素敵だわあ〜」



聖川は今、カメラの前で神宮寺に押し倒されていた。豪奢なカーテンを施されたベッドで、衣服はシルクのシーツのような布切れ一枚である。
肌触りはいい。が、仕事とは言え、羞恥に顔が熱くなる。

一方神宮寺は、同じように心許ない衣服を纏いながらも惑うことなく、体を動かしている。


「こうかな?」


「そうそう!もっと近付いて!マサトちゃんしかめ面しない!」


「す、すみません!」


聖川も撮影されることに意識を集中させ、神宮寺の首に腕を回す。神宮寺は唇だけで笑い、聖川の後ろ髪に指を差し込んだ。

吐息が触れる距離まで近付く。
どうしてこんなに、肌を触れあう必要がある?

これではどうも、セクシャルな雑念が入ってしまう。

神宮寺はそんな聖川の心情を知ってか知らずか、今度は腕を絡めてきた。
そこで聖川は、ひらひらとした互いの袖口が重なり、新たな色を生み出していることに気付いた。

はっと視界を上にし見渡せば、様々な角度から当てられた照明の効果もあり、真っ白なベッドカーテンにパステルカラーのマーブル模様が浮き上がる。


仰ぎ見て、綺麗だ、と思った。偶然と必然を織り混ぜた色々の空間に浮かぶ、美しい金髪と空色の瞳が生える。

見とれていると、神宮寺が耳元で囁く。

「聖川、何見てるんだ」

「綺麗だな、と思って」

神宮寺は微笑んだ。


「撮影中。」


「すまない」


「いや、いいけどさ。お前、大物だな」

その後は不思議と落ち着いて、無事に撮影を終えることができた。

神宮寺に助けられたと思い礼を言ったら不思議そうな顔をされた。

「しかしあれは、一体何がノンセクシャルだったのだろうな」

聖川が疑問を口にすると、神宮寺は少し考えてから、答えた。

「ああいう性的絡みを想像させる画を神格的に飾りたてるのが、監督の思うノンセクシャルなんじゃないかな」

「そういうものかな」

神宮寺の言葉に、彼を少し遠く感じた。

神格化するのは相手か、その行為自体かはわからない。

けれど、その場合性的欲求は持たないものではなく、自身で抑圧しているだけではないか。

もちろん自分はノンセクシャルではないため、理由などはわからないけれど。

神宮寺は、どう思っているのだろう。

同性である自分と付き合い、肌を重ねていること。

聖川は何故だか聞けなかった。聞いて、この関係が壊れることが恐くなったのかもしれない。


控え室を後にし、神宮寺と帰路に着く。


「久しぶりだな、一緒に帰るの」

「ああ」


温かな気持ちの底に、そっと陰りが差す。

神宮寺が足りていない。
きちんと話をしたい。

それ以上に、強く、抱きたい。


口笛を吹きご機嫌な神宮寺の横顔を見つめながら、聖川は自分はどこかおかしいのではないか、と考えていた。





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