6 二週間ぶりに神宮寺と二人で雑誌の撮影の仕事が入った。 女性ファッション誌の特集ページで、テーマは「ノンセクシャル」と聞いている。 「どういう撮影なんだろうな」 「さあ。まあ、今回は映像なんかも撮ってる人だし、けっこう面白いんじゃないかな」 メイク中に神宮寺とこんな話をした。モデルの仕事はあまり経験がないため、神宮寺がいて少し安心していた。 しかし。 (なんだ、この状況は!) 「マサトちゃあん!そんなんじゃ全然だめ!もっと切なく!それでいて熱く!」 ピンク色の個性的なサングラスをかけた監督が、くねくねとした動きで指示をしてくる。 「こう…ですか?」 「ちがあう!もっと近付いて!そうそう!レンちゃん素敵だわあ〜」 聖川は今、カメラの前で神宮寺に押し倒されていた。豪奢なカーテンを施されたベッドで、衣服はシルクのシーツのような布切れ一枚である。 肌触りはいい。が、仕事とは言え、羞恥に顔が熱くなる。 一方神宮寺は、同じように心許ない衣服を纏いながらも惑うことなく、体を動かしている。 「こうかな?」 「そうそう!もっと近付いて!マサトちゃんしかめ面しない!」 「す、すみません!」 聖川も撮影されることに意識を集中させ、神宮寺の首に腕を回す。神宮寺は唇だけで笑い、聖川の後ろ髪に指を差し込んだ。 吐息が触れる距離まで近付く。 どうしてこんなに、肌を触れあう必要がある? これではどうも、セクシャルな雑念が入ってしまう。 神宮寺はそんな聖川の心情を知ってか知らずか、今度は腕を絡めてきた。 そこで聖川は、ひらひらとした互いの袖口が重なり、新たな色を生み出していることに気付いた。 はっと視界を上にし見渡せば、様々な角度から当てられた照明の効果もあり、真っ白なベッドカーテンにパステルカラーのマーブル模様が浮き上がる。 仰ぎ見て、綺麗だ、と思った。偶然と必然を織り混ぜた色々の空間に浮かぶ、美しい金髪と空色の瞳が生える。 見とれていると、神宮寺が耳元で囁く。 「聖川、何見てるんだ」 「綺麗だな、と思って」 神宮寺は微笑んだ。 「撮影中。」 「すまない」 「いや、いいけどさ。お前、大物だな」 その後は不思議と落ち着いて、無事に撮影を終えることができた。 神宮寺に助けられたと思い礼を言ったら不思議そうな顔をされた。 「しかしあれは、一体何がノンセクシャルだったのだろうな」 聖川が疑問を口にすると、神宮寺は少し考えてから、答えた。 「ああいう性的絡みを想像させる画を神格的に飾りたてるのが、監督の思うノンセクシャルなんじゃないかな」 「そういうものかな」 神宮寺の言葉に、彼を少し遠く感じた。 神格化するのは相手か、その行為自体かはわからない。 けれど、その場合性的欲求は持たないものではなく、自身で抑圧しているだけではないか。 もちろん自分はノンセクシャルではないため、理由などはわからないけれど。 神宮寺は、どう思っているのだろう。 同性である自分と付き合い、肌を重ねていること。 聖川は何故だか聞けなかった。聞いて、この関係が壊れることが恐くなったのかもしれない。 控え室を後にし、神宮寺と帰路に着く。 「久しぶりだな、一緒に帰るの」 「ああ」 温かな気持ちの底に、そっと陰りが差す。 神宮寺が足りていない。 きちんと話をしたい。 それ以上に、強く、抱きたい。 口笛を吹きご機嫌な神宮寺の横顔を見つめながら、聖川は自分はどこかおかしいのではないか、と考えていた。 → |