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寮に帰ると、聖川は授業の教科書を開いて勉強していた。相変わらず真面目な人間だ。

聖川は、神宮寺の条件を了承した。しかし、本当に意味を理解しているのだろうか。

「ただいま」

「おかえり」


こちらを見向きもせず、鉛筆を滑らしている。

神宮寺は何だか気に入らず、聖川に向かい声を荒げた。

「おい、聖川」

「どうした」

「さっきの意味、わかっているのか?」

「わかっている。ただ、今は授業の復習中だ。」

やっとチラリと見たかと思うと、まるでこちらが催促したかのような台詞を返され、また腹がたった。


これでは俺が、聖川としたいみたいじゃあないか。軽い気持ちで放った言葉が重大な意味を持ち始めてしまったようで、神宮寺は焦りを感じた。

聖川が何を考えているのか、よくわからない。


「聖川」

「ん?」


机に向かう聖川をを後ろから抱き締めた。至近距離で見つめても、表情は変わらない。

鉛筆を握る右手を掴んだ。鉛筆が転がる。

「神宮寺っ……」


聖川が初めて焦りを見せる。両腕を固定し、その唇を無理やり奪った。


一番近い距離で聖川を見つめる。大きく見開かれた瞳は当惑が伺えた。


固く閉じられた口唇を割り開こうと、舌で触れた。瞬間、強い力で体を振り切られる。


神宮寺は聖川に突き飛ばされる形で後ろ手をついた。



「聖川」

「すまない」

聖川は唇を押さえながら、自身にも言い聞かせるように、呟く。


「すまない、やはり、無理だ」


神宮寺はほとんど無表情で、立ち上がる。

こうなることはわかっていたから、傷付くわけがない。ただ、衝動的に動いてしまった自分を叱咤する。

聖川は初めてだったかもしれない。悪いことをした。


「興が削がれた。行く」

踵を返すと、聖川に呼び止められる。


「待て!神宮寺!」


今さら、何を言おうとするのか。神宮寺は振り返らず、足を進めた。







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