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※神宮寺さまと女性の絡みがあります。ご注意ください。



神宮寺は渋谷にあるクラブに来ていた。薄暗い部屋、チカチカと光るネオン、ノリのいい音楽の影で、欲望に忠実な声があちこちでこだまする。


「ねえ、レン?それってピアス?」
「ん、ああ」

舌ったらずの口調で聞いてきたのは、先ほど知り合った女性だ。

キャラメルブラウンの長い髪をくるくると巻いていて、マスカラをばっちり塗り、爪にはストーンをこれでもか、というほど乗せたネイルを施している。

神宮寺よりも年齢が5歳ほど上で、金融関係の会社に勤めていると言っていた。

「すごいねえ。痛くなかった?」

「そんなに。痛いのは嫌いだし」

「ふうん」

女性はスコッチを追加注文し、何か飲む?と聞いてきた。神宮寺はやんわりと断る。

飲み過ぎたかもしれない。頭が重かった。女性の、キンキンと甲高い声も、今は頭に響く。大好きな音楽に身を任せる余裕も、今の神宮寺にはなかった。


学園生活は予想よりは楽しいものだった。マイペースで、あまり人とつるむことのない神宮寺だったが、クラスで信用のおける友達も出来た。何より、歌うことが好きで、マイク前で思い切り歌うことは気持ち良かった。
担任の日向に調子がいい時と悪い時のムラがありすぎる、と指摘を受けた時は、図星をさされて笑ってしまった。


多分、寮のことが無かったら、順調に学園生活は送れただろう。


神宮寺は同室の聖川を思い出し、ため息をついた。聖川は初日に告げた通り、一切干渉はしてこなかった。
しかし、神宮寺が朝起きないときはそれとなく声をかけたり、課題の有無を聞いてきたり、些細なところで気遣いが感じられた。
もともと神経の細やかな性格なのだから、それは仕方ないことだ。(むしろ、ありがたい時もある。)


あいつは…。


聖川の整った顔を思い浮かべる。


あいつは、寂しくて寂しくて仕方なくて、誰かにすがるなんてこと、あるのだろうか。


「ねえ、レン?ちょっと抜けない?」


女性が腕を絡めてくる。甘い香水がふわりと漂った。


(ないだろうな。あいつと俺は、違う人間だ。)


期待されて大切にされて、生きてきた人間だ。

両親もいて愛されて、人に何かを与えられる人間だ。

俺の欲しいもの全て持っているのに、反発し、自分の夢に生きようとする。

覚悟もある、強い人間だ。


違う理由は、何故だろうか。やっぱり、母さんかな。


理由を探すのは幼さと同義であると、神宮寺は頭の片隅で知っていた。


「行こうか」

神宮寺は立ち上がり、ジャケットを羽織る。女性は嬉しそうに後を付いてきた。





財閥の御曹司も大変だ。

小さい頃から身の周りの世話役だったジョージを振り切り、神宮寺は女性とホテルにいた。

胸にチクリと罪悪感が沸く。こういう時は、自分の恵まれた家柄が煩わしい。

安いビジネスホテルだ。自分の出自を知る取り巻きはたくさんいるが、時々何者か知られていない人間とベッドを共にしたくなる。

理由はわからない。寂しい、のだろうか?

10代であることを告げると、女性は少し迷ったようだった。しかし、寂しいんだ、と甘えるように抱き着いたら、すぐに体を預けてくれる。


「レンって、なんだか、イメージと違うのね」

「そうかい?」

「ええ。そういうギャップ、ずるいわ、」

熱っぽい視線で見つめると、女性はすぐに首に腕を回してきた。


ふわり、甘い香水の香り。柔らかな身体と一緒に、ベッドに沈み込む。深い海のようで、安心する。


目を閉じると、脳内に同室の男が浮かんだ。

あいつは、こんな時、どうやって対処するんだろうか。

どうしようもなく、劣情を感じた時は。


「んっ……」


色付いた声を耳に、神宮寺は思考する。
ギブアンドテイク、という言葉が浮かぶ。


女性を気持ち良くさせる。自分も性欲は満たされ、安眠も確保できる。


浮かんだ感情があまりに冷めていて、自己嫌悪に陥った。

本当の愛とは、なんなんだろう。

あいつは答えを知っているだろうか。

あの強い男は。






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