Don't cry,baby
神宮寺はショーウィンドウのマネキンに目を奪われていた。


あまり店で服を買うことはない。撮影で使用して気に入ったものを買い取ったり、招待された展示会で買ったり、宣伝になるからと送られてきたりする。

毎シーズン着られないくらいにクローゼットを占領してしまうため、必要がないのだ。


しかし、次の撮影までの暇潰しに街を歩いていて、目に入ったそれに思わず足を止めてしまった。

(可愛すぎるだろ……!)


ショーウィンドウには二体のマネキンがお揃いの服を着て立っている。ただし、片方は子供、もう片方は大人だ。


ペールトーンの温かな色合いで、春の訪れを予期させる。


そこは子供服を中心に展開している店だった。親子ペアルックというのが流行っているせいだろうか、大人向けの服も少なからず置いてある。


神宮寺が店内に入ると、何人かの感嘆の声が聞こえた。


他の買い物客の邪魔になってしまいそうなことに、心の内で謝罪しながら、神宮寺は店内を見渡す。


「何かお探しですか?」


女性の店員がにこやかに近づいてきた。高くて可愛らしい声だ。


「ああ、友人の妹の出産祝いに。あのウィンドウに飾ってある……」


「おめでとうございます。あちらはとても人気なんです。可愛いですよね」


店員は慣れた所作で、複数サイズを用意して見せてくれた。


「一番小さなサイズはこちらで、これより少し長く着れるサイズはこちらですね。赤ちゃんは成長が早いですから。」


店員が手に持って説明してくれる。一番小さなサイズの服には「50cm」と書いてあった。


「こんなに小さいんだ」

「はい、あの、神宮寺さん」


店員は神宮寺の名前を呼んだ後、ハッと両手を口に当てた。


神宮寺は唇に人差し指をあて、ウインクをする。店員が気にしないように、こちらも気にしていない素振りを見せる。


「なんだい?」


「あ、はい。当店は親子ペアのデザインも取り扱っていて、大変人気なんです。もしよければ、大人用のお洋服もいかがですか?」


「うーん、そうだね。じゃあ、これとこれ、頂こうかな」


神宮寺は母親用の服も一緒に購入することにした。


色白で線の細い彼女には、よく映える色だろう。

友人の面影がある妹が、赤ちゃんとお揃いの服を着ている姿を想像して、神宮寺は微笑んだ。


「ありがとうございました!」


店を出て、次の現場へと向かう。出産祝いを渡したら、気が早い、と笑うだろうか。聖川の姿を想像し、神宮寺の足取りは軽い。


聖川には、温かな家庭が似合うと思う。

帰宅すれば美味しい料理が食卓に並んでいて、可愛らしい奥さんと子供が待っている。


子供の成長に連れて、家族の形も変わっていくが、離れていても絆で結ばれていて、互いを思いやっている。


それは、神宮寺が持っている家族の理想像であった。


けれどもしそれが現実になったとしたら、自分は煩わしく感じるだろうと確信している。

神宮寺は子供が嫌いだ。この先一生、作ることはないだろう。


聖川は神宮寺を選ぶと言ってくれた。けれど、この先はわからないと思う。


未来がわからない不安はいつもついて回る。


それは、神宮寺が描く理想の家族であっても、等しく感じる不安だ。


だけど、生まれてくる全ての子供たちに言いたい。


泣かないで、ベイビー。人生はそんなに悪いもんじゃないよ。



HAPPY END !!

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