2 「お兄ちゃん」 愛らしい声と、ぱっちりとした目。短く切り揃えた髪に、仕立ての良い服。 神宮寺レンの記憶の中の聖川真斗は、いかにも温室育ちのお坊ちゃんという感じだ。 「こっちだ、マサト」 「うん!」 不安そうな聖川の手を引く。 「お兄ちゃん…」 「ん?」 聖川の手は小さく、日だまりのように温かい。 「ありがとう!」 自分だけに見せる、無邪気な笑顔。くすぐったさに神宮寺は頬を染める。 気付けば、パーティー会場に行くと、いつも聖川を探している自分がいた。 会場の外に連れ出して、迷い込んで、泣かせてしまったこともあったけど……。 あの頃の神宮寺は、まだ財閥同士の軋轢や、長子との差などわかっていなかった。それに、母からの愛も一身に受けていた。 だから、素直にあの小さくて弱い存在に、手を差しのべられたのかもしれない。 聖川との唯一、美しい記憶だ。 自分でも誰かを助けることが出来る。笑顔に出来る。 唯一、自信が持てた頃−。 → |