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「お兄ちゃん」


愛らしい声と、ぱっちりとした目。短く切り揃えた髪に、仕立ての良い服。

神宮寺レンの記憶の中の聖川真斗は、いかにも温室育ちのお坊ちゃんという感じだ。

「こっちだ、マサト」

「うん!」

不安そうな聖川の手を引く。

「お兄ちゃん…」

「ん?」

聖川の手は小さく、日だまりのように温かい。

「ありがとう!」

自分だけに見せる、無邪気な笑顔。くすぐったさに神宮寺は頬を染める。

気付けば、パーティー会場に行くと、いつも聖川を探している自分がいた。


会場の外に連れ出して、迷い込んで、泣かせてしまったこともあったけど……。


あの頃の神宮寺は、まだ財閥同士の軋轢や、長子との差などわかっていなかった。それに、母からの愛も一身に受けていた。


だから、素直にあの小さくて弱い存在に、手を差しのべられたのかもしれない。

聖川との唯一、美しい記憶だ。
自分でも誰かを助けることが出来る。笑顔に出来る。

唯一、自信が持てた頃−。







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