honey
目を覚ますと、神宮寺がこちらを見てにやにやとしていた。

神宮寺は朝に弱い。それは、夜一人だとよく眠れないという子供のような性質のせいなのだが、付き合うまで気付かなかった。

付き合い出してからは、躊躇いながらも「一緒に寝たい」と甘えてくるこの男を憎からず思っている。

しかし、そんな性質に油断していたら、最近はこんな風に、先に起きて寝顔を覗かれることがある。

別に構わないのだが、こうにやけられると、楽しくはない。

「どうしたんだ。神宮寺」

「別に。お前の寝顔を見ていた」

「おはよう」

「ああ、おはよう」

神宮寺はまだ眠そうに、呂律のはっきりしない口調で挨拶を返す。
寝つきも寝起きも良い聖川とは正反対である。
聖川が神宮寺の頬に触れようとするとやんわりと拒否された。
神宮寺は振り払った己の手をそっと聖川の下肢へと伸ばしていく。

「っ、何を」

「たっている。」

「っ!生理現象だ。仕方ないだろう。」

また、にやにや顔だ。余裕がある時の神宮寺は少し、憎らしい。

神宮寺の手のひらが固くなったそれをやんわりと掴んだ。

「くっ」

思わず声を押さえると、神宮寺は聖川に口付けしてきた。


「ん…、ぅ」

手の動きは緩慢にそこをしごき上げる。一方、口付けは口唇を割り開き、ねっとりと口腔内を舐められた。背中がぞわぞわと粟立つ。


「なあ、マサ、やりたいことがあるんだけど」

「へ…?」


半端に刺激された自身から手を離され、聖川は間抜けな声を上げる。
神宮寺の楽しそうな声に、聖川には一抹の不安が過る。

神宮寺はベッド横のローテーブルに置かれたビンを、聖川の前に掲げた。
「これ、使いたい」
「ハチミツ…?」

ポカンとした顔で、透明のビンに貼られたラベルを読む。中身は薄い黄金色で美しく、上質なものだとわかった。

「兄がカナダ土産で送ってくれたんだ」

神宮寺がビンの蓋を取り、人差し指を入れる。粘度のある液体を器用に掬い取り、聖川の唇へ塗り付けた。


舌で舐めとると、仄かな甘みが口の中に拡がった。でも、食べ過ぎたら胃もたれ起こしそうだ。


「神宮寺、そうだ、パンケーキでも作ってやろうか?ハチミツに合うと思う。あと、保湿成分もあると聞くし、美容液などに加工しても…」

「そうだな。でも、こっちが先だ」

聖川の必死の抵抗むなしく、神宮寺は聖川の唇をペロリと舐めた。甘い…と不機嫌に呟き、聖川に跨がる。
甘いものが苦手なのだから、やめればよいのに…。そう冷静に思いながらも、これから始まる行為を想像し、聖川の其処は反応せざるを得なかった。





「ん…、む…」

ピチャピチャと卑猥な音が部屋に響く。甘い匂いも充満して、正常な神経が麻痺しているような心地がした。神宮寺は聖川の屹立を喉奥まで飲み込み、愛撫していた。


「神宮寺、もう、いい、それより…」

限界まで高められた体は、早く神宮寺の中に入りたいと悲鳴を上げていた。神宮寺にこのような行為を強要したことはない。聖川は、むしろ自分が、大事に大事に、体の隅々まで舐め回し、奴がもうやめてくれと泣き出すまで、気持ち良くさせてあげたいと思っている。今の状況は、気が遠くなるくらい気持ち良いが、少し辛い。

お前は俺の他に、一体どんな人間に、そのような愛撫を施したのだろうか?

そんなどうすることも出来ない嫉妬心が、頭を支配してしまうのだ。

「気持ち良くないか?」

「いい、から…」

神宮寺が眉を潜め、こちらを見上げる。片手で長い髪を気だるげにかきあげ、片手で立ち上がった屹立を固定し、赤い舌でチロチロと側面を舐める。挑発的なその姿に一瞬で達してしまいそうになる。

聖川は一歩のところで我慢して、神宮寺の体を抱き上げた。

「聖川?」

「いれていいか?」

荒い呼吸のままに告げると、神宮寺は安心したように微笑んだ。


「くっ…ぅ…」
「やはり、少し慣らしたほうが良かったか?」


向かい合う形で挿入を開始する。神宮寺の辛そうな表情に、聖川は心配そうに囁く。先端をぎっちりと締め付けられ、身動きするのも少し痛い。

神宮寺は顔を左右に振り、聖川を抱き寄せる。


「大丈夫……マサ…キス」

耳元で上擦った声で甘えられ、聖川はいとおしむようにキスをした。差し出された舌に強く吸い付き、胸の突起をもみこむように刺激する。

段々と、神宮寺の内壁が収縮を始めてくる。空いた隙間にタイミングを合わせ、体を進めていく。
熱く、ねっとりと絡みついてくる感覚に、意識を持っていかれないように注意する。神宮寺が気持ち良くなれる場所を探すのが先決だ。


「あっ、ぁ!マサ……んっ…」

ある一点を屹立が擦った際に、神宮寺が泣いているような喘ぎを漏らした。ここか、と思い、腰を小刻みに揺らし、其処を責め立てる。「レン……?いいか?」

「んっ、…う……気持ち、い……はぁっ、ぁ、」
耳元で囁くと、一際中が収縮する。首筋から甘いハチミツの香りがした。思わず噛みつく。不思議と神宮寺はいつも甘い香りを漂わせている。
聖川限定のフェロモンのようなものだろうか。考えて、聖川はクスリと笑った。

快楽に乱れる神宮寺は妖艶でたまらない。不安そうに揺れる瞳も、上擦った声も、滑らかな肌も、すべて作り物のように美しい。中はしっかりと絡み付き、聖川を掴んで離さない。


入り口まで抜いて、また奥へと、大きくスラストする。激しい摩擦音が響いた。ハチミツで濡らしていたとは言え、少し痛いかもしれない。

しかし神宮寺は唇を噛みながらも腰を振り、聖川の其処を受け入れている。


「レン、愛している…」
「マサ……んっ…」

ベッドの横のハチミツ瓶を手に取り、神宮寺の、屹立へとドロリとかけた。神宮寺は冷たさに身を捩る。甘い香りに、くらくらした。

先走りとハチミツで滑りが良くなった神宮寺の屹立を、撫で付けるように愛撫する。内側も同時に擦りつけると、聖川を受け入れるように収縮を繰り返した。

「レンっ、……」
「ぁっ、あ…あ…!」
神宮寺の強い締め付けを抉じ開けるように、腰を動かす。額に汗が伝った。神宮寺はいやいやと首を振り、聖川を抱き寄せる。汗に混じって、ふわりと甘い香りがした。

限界が近い。そう思った瞬間、聖川は果てていた。





「ベタベタだ…最悪」

神宮寺が不機嫌に呟く。情事後この身代わりの早さはいっそ清々しい。

「お前がやりたがったんだろう」
「俺は自分の体につけたいとは言っていない」


まあ、確かにそうだが。聖川は釈然としない。体のベタベタと甘ったるい匂いに、反論を考えるのも面倒になってきた。


「大体、俺がお前を気持ち良くさせようとしていたのに」

ぶつぶつという小言は、風呂が溜まる10分間は我慢してやろう。と、思ったら、なんだか欠伸が出てきた。


「おい!聖川!」

寝つきのよい聖川が叩き起こされるのは、そう遠くない未来のことである。


END


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