ルーチンワーク

「おはよう」

普段通り、始業10分前に出社し、タイムカードを押した神宮寺は、自席に向かう途中に目に入る聖川に挨拶をした。

以前は同期ではあってもそれほど親しくはなく、挨拶を交わすことなど無かったため、最初は上司などに驚かれたものだ。

そういったときは、持ち前のノリの良さで、「一度飲みに行ったら意気投合したもので」
と、嘘と本当を織り交ぜ笑えば、聖川以外は皆納得していた。

この習慣は、聖川と寝た後から続いているものだ。特に意味はないけれど、単調になりやすい日常にちょっとしたスリルを加えてくれる。身体から始まったこの関係に、不安に思いながらも神宮寺は楽しんでいた。

もう一つ、今日は水曜日の定退日のため、アフターファイブの約束がある。
神宮寺は鼻歌でも歌いそうになるくらいの嘘みたいなテンションで、客先に持っていく資料の確認を始めた。

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「今日は俺が作る」

そんな柄にもないことを提案したのも、この非日常をもっと続けたいと思ったからかもしれない。

仕事を早々に切り上げ、聖川のマンション最寄り駅で待ち合わせをし、何か食材をスーパーで買ってから帰ろうという話になったときに、神宮寺はそう提案した。

当然のごとく、料理など作ったことがない。ただ、いつも慣れた手付きで準備をする聖川を見ていて興味が湧いたのだ。

「どうしたんだ、急に」

「別に、なんとなく」

聖川は驚きながらも、嫌ではない様子だった。神宮寺は買い物かごをカートに乗せて、スーパーの中を進む。聖川も食材に目を向けながら、並んで歩いていく。いつもとは逆の立ち位置だ。

「何食べたい?」

「お前が作れるものだな」

聖川がにやり、と笑う。バカにしやがって。けれど確かに、そんなに凝ったものはいきなり無理だ。

そこで、神宮寺は献立を決めて、かごの中に食材を入れ始めた。
サニーレタス、トマト、きゅうり、生ハム、これはサラダだ。
パスタ、オリーブオイル、ニンニク、鷹のつめにベーコン。ペペロンチーノを作ろう。

聖川の作るご飯は和食中心のことが多いので、普段とは違ったものを作ることにしたのだ。

「楽しみだな」

聖川の笑顔に満たされながら、神宮寺は会計を済ませた。









 

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