過去の亡霊![](//img.mobilerz.net/sozai/1616_w.gif)
「神宮寺くん、何だかイメージと違ったわ」
長い巻き髪をつまらなそうにかきあげ、彼女は言った。
「どれだけ依存してるの?正直こわい」
嫌悪感をあからさまにしながら、吐き捨てるように言葉を続ける。
「ごめんなさい、もう付き合ってられない」
苛立ちの込められた高い声。
自分はただ呆然とその背中を見送る。
傷付いたような顔を意識しながら、その場で立ち竦む。
どこかで予想通りだったと、安堵していた。
*
思春期の頃の夢を見た。
肉体的には成熟し始め、精神的には未熟な、不安定な頃の夢を。
当時自分の環境でほとんどの割合を占めていた家庭と学校は、どちらも閉塞感が漂っていた。
家にいると、ただ世間の目だけを気にして、自分をしかりつける父。
父に本当の意味で期待され、それに従う兄たち。
家族の中で、神宮寺は異物だった。
そして学校では、神宮寺財閥という家柄だけで好奇の視線に晒された。
しかし、神宮寺自身には何の特別性もないと知れば、周囲の人間たちはすぐに興味を失っていった。
そんな時は毎回、寂しさと安堵が胸を支配していた。
先ほど見た夢は、初めて出来た彼女に振られた夢だった。確か、一つ上の先輩だった。
朧気な理由は、そのあとも数えきれないほどの交際を経験したからだ。何の疑問もないまま、男性も女性も、空白を埋めるように付き合って、寝た。
あの頃のことを思い出すと、まだ胸が痛む。
恋や愛に幻想を抱いて、相手も自分も傷付くような思いのぶつけ方をした。依存していた。幼かった。スマートじゃなかった。
今なら、もっとうまくできる。相手には何も求めず、相手のためを思っているかのように振る舞うことができる。
けれど、心の奥底ではまだ捜しているから、諦めきれていないから、痛むのかもしれない。
自分だけを見てくれる、大切にしてくれる、そんな誰かを。
|