過去の亡霊

「神宮寺くん、何だかイメージと違ったわ」


長い巻き髪をつまらなそうにかきあげ、彼女は言った。


「どれだけ依存してるの?正直こわい」


嫌悪感をあからさまにしながら、吐き捨てるように言葉を続ける。


「ごめんなさい、もう付き合ってられない」


苛立ちの込められた高い声。

自分はただ呆然とその背中を見送る。


傷付いたような顔を意識しながら、その場で立ち竦む。


どこかで予想通りだったと、安堵していた。





思春期の頃の夢を見た。

肉体的には成熟し始め、精神的には未熟な、不安定な頃の夢を。

当時自分の環境でほとんどの割合を占めていた家庭と学校は、どちらも閉塞感が漂っていた。


家にいると、ただ世間の目だけを気にして、自分をしかりつける父。


父に本当の意味で期待され、それに従う兄たち。

家族の中で、神宮寺は異物だった。


そして学校では、神宮寺財閥という家柄だけで好奇の視線に晒された。


しかし、神宮寺自身には何の特別性もないと知れば、周囲の人間たちはすぐに興味を失っていった。

そんな時は毎回、寂しさと安堵が胸を支配していた。


先ほど見た夢は、初めて出来た彼女に振られた夢だった。確か、一つ上の先輩だった。


朧気な理由は、そのあとも数えきれないほどの交際を経験したからだ。何の疑問もないまま、男性も女性も、空白を埋めるように付き合って、寝た。



あの頃のことを思い出すと、まだ胸が痛む。


恋や愛に幻想を抱いて、相手も自分も傷付くような思いのぶつけ方をした。依存していた。幼かった。スマートじゃなかった。


今なら、もっとうまくできる。相手には何も求めず、相手のためを思っているかのように振る舞うことができる。


けれど、心の奥底ではまだ捜しているから、諦めきれていないから、痛むのかもしれない。


自分だけを見てくれる、大切にしてくれる、そんな誰かを。





 

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