愛情
「っ、…」
「少し赤くなっている。やっぱり色が白いからか」
本日の予定が終了し、撮影期間中に出演者とスタッフ用に取られているホテルの部屋に二人は帰ってきていた。
ちょっとした悪戯心で、シャワー中の聖川のいる浴室に突入した。後ろから抱きつき、首筋に指を滑らすと、薄く色付いているのが分かる。
「お湯で染みるだろ?」
「ああ。襟元を緩めなければ良かった」
苦い顔をする聖川を面白く思いながら、神宮寺は聖川の首筋を噛み付く。
「なあ、聖川」
「ん…」
甘えるようにキスをねだると、目を瞑り答えてきた。
指先を絡め、舌を伸ばす。一日中太陽の下にいたため、体の内から火照っていた。
「神宮寺」
キスを止めた聖川に名前を呼ばれる。
「どした?」
聖川が後ろ手でシャワーを止め、肩をすくめた。
「今日は暑かったからな。このままだと、湯気に上がりそうだから、部屋でしないか?」
あまり感情の見えない、冷静な誘い。確かに全うな意見なのだけれど、神宮寺は少し気に入らない。思えばいつも誘うのはこちらで、情熱的に求められた経験がない。
神宮寺は不服そうな顔のまま、聖川に頷いた。
「お前も汗を流してしまおう。おいで、洗ってやる」
聖川は満足そうに微笑みかけ、神宮寺の髪に指で触れた。
神宮寺はされるがまま聖川に抱きついた。温めのシャワーで頭を濡らされていく。
優しく頭皮をマッサージするように、滑る指が心地よい。
瞳を閉じて身を任せながら、聖川のこうした安定的な優しさと感情的な激しさが共存し得たら理想なのに、と我が儘な思考が浮かんでは消えた。
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