共演

「はい、カットー!」


監督の声に二人はハッと目を開き、表情を緩めた。演技に集中していた証拠だ。


「神宮寺くんは、今の感じで。聖川くんは、もう少し感情を押さえぎみでやってみてくれるかな?」

「はい」

「はい、わかりました」

指摘を受けた聖川の方は、先ほどの自分の演技を反芻しながら、固い表情で頷いた。


「オッケー、じゃあテイク2いくよ!」


監督の合図と共に再びカメラが回る。


時節は初夏。神宮寺と聖川は映画の撮影のために南の島へ赴いていた。


これまでも端役を経験したことはあるが、メインの役は初めての経験だ。

しかし、学生時代からライバルだった二人は、自然と良い緊張感を保つことが出来ており、撮影は順調に進んでいた。


現在は聖川演じる海軍将校が戦地に赴くため、恋人を置いていくのを、神宮寺演じる幼なじみのレスキュー隊員が引き止めるシーンを撮影している。


『っ!ふざけるなよ…!』

拳を握りしめ、神宮寺は怒りに声を荒げる。


『ふざけてなど、いない。』


聖川はぐっと息を詰め、神宮寺の方をにらみ返す。


『俺は本気で、お前になら彼女を任せられると思ったのだ。』


『俺の気持ちを知っているんだろう?』


『……知っている。』


『もしお前が帰ってこないなら、俺は遠慮なく彼女を奪うぜ。それでもいいっていうのか?』


神宮寺は聖川に挑戦的な視線を向けた。聖川は目を伏せ、覚悟を当に決めているという様子で返す。


『それも、仕方ないと思っている』


カメラが二人から引き、美しい海と砂浜が映し出される。監督の合図で、撮影の完了が知らされた。


「オッケー。お疲れ」


メインシーンの撮影が終わり、神宮寺はほっと胸を撫で下ろした。


まだクランクアップまで時間はあるが、しばらくは南国のバカンスを楽しめるだろう。


足取り軽く、映像チェックをしている聖川の方に向かう。


「どうだ?」


「うむ……」


「よくなっているよ。お疲れさま。二人のメインシーンは終わりだよね?ちょうどいいから、次までゆっくりしているといいよ」


監督の言葉に聖川も安心し、ありがとうございます、と丁寧に礼をした。

神宮寺もそれに倣い、少しあちらで休みます、と木陰を指差した。


「あそこなら邪魔にならず、撮影の見学も出来ますし。聖川はどうする?」

「俺もいく」


聖川は軍服の詰襟を緩めがら、神宮寺の後に続いた。





「暑いなあ。」


「ああ」


木陰に座り、別シーンの撮影を見学しながら、聖川と雑談をする。


「軍服がさらに暑苦しいな、脱いだら?」


「焼けるのが嫌だ」


聖川は首元をタオルで拭いながら、頭を左右に振った。南の島、軍服、色白の聖川。ミスマッチな組み合わせに、神宮寺は笑ってしまう。


「なんだかお前、こういう役多いな」


「どういう役だ?」


「組織の命令とか責任のために、恋人とか大切な人を置いていく役」


そして、神宮寺は大抵それを引き止める役だ。役とは言え、置いていかれるのはあまり面白くない。


「確かにそうだな。そして結局死ぬことが多い。そして神宮寺は、幸せに暮らす。ずるいぞ」


「幸せかはわからないさ。勝手に置いていく聖川の方がずるいだろ」


聖川は、確かに、と微笑んだ。

あくまでも役の話であるのに、こうして言い合いのようになることが多々あった。周囲のスタッフはそんな二人を微笑ましく見守っている。


役の上でも神宮寺と聖川は正反対なことが多く、世間一般のイメージとして定着しつつある。


悪くはないが、もっと色々な役も演じてみたいものだ。


シャイニング事務所に準所属になり約一年経過し、神宮寺には様々な野心が芽生え始めていた。





 

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