聖なる夜の贈り物
劇団シャイニングとしてSTA☆RISH、QUARTET★NIGHTのメンバーが三つに分かれ、各舞台が旗揚げされ、約一週間が経過した。
神宮寺と聖川は別々の舞台に出ており、練習を含め公演期間は長く、やはり中々会えない日々が続いている。
今日はクリスマスイブで、神宮寺は舞台の公演期間が始まって最初の休演日だ。と言っても、調整のために練習もあり、聖川の方は舞台があるため、元々会う予定はなかった。
久しぶりにゆっくりと朝の時間を過ごし、オープンカフェでランチを取り、稽古場に向かう。長い公演期間なので、他の二組の舞台も見に行くことも出来るだろうから、楽しみに思う。
稽古場の待合室に荷物を置いた時、メールの着信音が鳴った。確認すると、電子機器に疎い、めったに送ってこない珍しい名前が表示されている。
ポーカーフェイスを意識しながら、指をスライドさせる。今夜会えないか。一言、素っ気ない文章が、低く落ち着いた声で再生される。
稽古が終わったら、お前の部屋に行くよ。
慣れた手付きでそう返信し、少なからず気持ちが浮上している自分を自覚した。
今日もがんばって、スパイ活動に勤しむか。
戯けた顔でスマートフォンを鞄にしまったところで、入ってきたカミュに怪訝な顔を返された。
☆☆☆
街が美しいイルミネーションで彩られている。神宮寺は軽い足取りで聖川の部屋に向かう。
心なしかカップルが多く感じる。夜の街は普段よりざわめいていた。何も明確な予定などないのに、わくわくと心が踊る。
このひんやりとした冬の空気が神宮寺は好きだ。室内に入ったときの温かさを想像するだけで、幸せな心地になる。
昔は冬が嫌いだった。頬を刺すような吹き荒ぶ風に、心まで寂しく、まるで世界に一人だけ取り残されたように感じた。飾られたイルミネーションも、華美な仮面を被って誰かといるのに孤独な自分を自覚して嫌いだった。
それなのに今、夢を持って毎日頑張っていて、大切な愛する人がいて、同じ景色が全然違って見える。自分も現金な人間だな、神宮寺は苦笑した。
呼び鈴を鳴らすと、聖川が出迎えてくれた。部屋の中の暖気がふわりと身を包む。
「聖川。もう帰ってきていたんだな」
リビングに入り、コートを脱ぎながら、くるりと見回す。
「ああ。神宮寺は、少し遅かったな」
「稽古が長引いてね。あと、イルミネーションが綺麗で、少し遠回りしていた」
「Twitterで見た」
聖川がいたずらっぽく笑い、神宮寺の身体を抱き寄せた。鼻の頭をぴたり、とくっつけて、冷たいな、と笑う。
「今日は珍しいな。聖川からメールくれるなんて」
「そうか?でも、なんだかんだ、俺から送らないとお前は誘ってこない気がする」
「あれ、そうだっけ」
確かに最近は、舞台の稽古に集中していてほとんど連絡を取っていなかったかも…とぼんやりと考えながら、聖川の唇に噛み付いた。聖川の唇は少し暖かくて、その温度を奪うように舌を伸ばす。
「ん……」
わざと音を出すように、並びの良い歯列をなぞりながら、煽るように細腰を撫でた。と、脱ぎっ放しで投げ置かれたコートの上に、半ば強引に押し倒された。
「聖、川……」
せめてソファで、と続けようとしたら、上唇をちゅ、と吸われ、性急にパンツに手を忍ばされた。ひんやりとした感覚に腰を浮かせると、好きなように揉みしだかれる。
「はっ、ぁ、どしたの?」
「どうもしない。背中、大丈夫か?」
「まあ、ラグがあるから大丈夫だが…、ベッドに行かないかい?」
「すまない、我慢できそうにない」
密着した腰には熱く固い聖川自身が存在を主張している。全く、どうもしないというのは嘘だ。どうかしている。
けれど、聖川がこんなにも切羽詰まった状況なのも始めてのことで、神宮寺の感情も高まってきた。ぺろり、と自分の唇を一度舐め、聖川のスラックスに手を挿入し、固い屹立を掴んだ。
「っ、神宮寺、」
「すごいね、ガチガチ。舐めてやろうか?」
「っ、遠慮しておく、」
聖川の形を確かめるように、指先一本一本でなぞっていく。普段は性的な事など嫌悪していそうな程俗的なものから遠く美しい造詣が、神宮寺が与える快楽によって妖艶に歪められている。神宮寺は楽しくなって、その表情を観察した。
「なあ、聖川?」
「うん?」
耳朶を歯みながら甘えた声で囁くと、聖川はふっと笑って首を傾げた。
「愛してる」
唇の形を確かめるようにゆっくりと呟くと、聖川の目元がふわりと色付いた。そして、荒々しいキスで仕返しされる。
「んっ、ぅ、感じたかい?」
既に先走りが溢れている聖川を弄りながら微笑めば、聖川は困ったように返す。
「ああ、今すぐ挿れたいくらいだ」
「ほんと、お前今日どうしたの、あっ……ん!」
不意打ちで人差し指を挿入され、大きな声を上げてしまう。性急に奥のしこりを指先で押し込まれ、腰の力が抜けてしまう。
「んっ、ぅ、待って……、」
「待てない」
「あ、あ、っ、」
前立腺を攻めたてながら穴全体を拡げるように揉みしだかれる。こんな風に性急に責められることは初めてで、神宮寺は困惑しながらも腰を揺らしてしまう。
「聖川ぁ、も…う……」
内壁を指で激しく擦り上げられ、既に前は先走りで濡れそぼっている。際限なく生まれてくる熱を開放したくて、けれど指だけではもどかしく、どうすればいいのかわからない。
「聖川、ぁ、、」
「入れていいか?」
「ぁ…」
スラックスをずらされ、熱い屹立を充てがわれた。無意識に力が入った腰をぎゅっと固定され、ゆっくりと侵入される。
「は、ぁ…」
ぎちぎちと押し広げられる感覚に朦朧としながら、目前の身体を抱きしめた。心なしか、身体が引き締まった気がする。それから、少し痩せたかもしれない。
「神宮寺っ、」
「あ、聖川ぁ、」
ゼロ距離まで身体を重ね、最奥まで入ってきたことが分かる。神宮寺はずっとこの熱を渇望していたのだと、気付かされた。理由もなく涙が溢れていく。
「神宮寺っ、」
「ん…、ん….」
聖川が律動を開始する。動きに合わせて腰をスライドさせながら、神宮寺は目を固く瞑った。久しぶりのセックスに感極まっている自身が恥ずかしくて仕方ない。
ぺろり、と頬を伝う涙を舐められ、気を取られている瞬間に、力強く内壁を突かれた。激しく擦られ絶頂まで誘われる感覚に、力が抜けていく。
「はぁっ、ぁ…」
「神宮寺っ、愛してる…」
耳元で囁かれ内壁が収縮し、中の屹立が蠕動したのを感じた。瞬間、互いの先端から白濁が放出されたのを知覚した。
☆☆☆
「それで、バロンが意外や意外、けっこうアドリブをいれてきてね」
「ほう…、やはりカミュ先輩も舞台経験があるから、それだけ余裕があるのだろうな」
あの後。浴室で身体を清め、聖川が用意してくれていたご飯を食べながら近況を話す。こうしていると、本当にしばらく話していなかったのだな、と気付く。
「聖川もするのか?アドリブとか。苦手そうだけど」
「そうだな…、まだそれほど出来てはいないが、何度も足を運んでくれるファンの方もいるし、少しずつやってみたくはあるな」
「確かにね。観客の反応が直に分かるから、舞台は面白いね」
「ああ。お前の舞台を見るのも楽しみだ」
「あ、俺も!聖川、和服がやっぱりいいな。似合っているよ」
「神宮寺も、イメージ通りだな。よく似合っている。」
「……」
「……」
二人で顔を見合わせた後、照れ隠しに視線を外した。これじゃあただのバカップルだ。なんだか俺たちらしくない。
でも。
「なあ、聖川」
「なんだ?」
「ご飯食べたら、もっかいしたい」
「う、うむ。」
咳払いをする聖川に吹き出しながら、こんな俺たちも、こんなクリスマスイブも悪くない。そんな風に思う神宮寺だった。
end
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