神宮寺レンの華麗なる提案

「なあ、最近マンネリしていないか」

神宮寺、その台詞をこの状況で言うということは、一体どういう意味なのだろうか。

聖川は、自分の身体に珍しく従順に組み敷かれていた美貌の男、神宮寺レンに、表情があまり分からないとミステリアスさが魅力だと世間に評価されている群青色の瞳を影らして向ける。

「それはどういう意味だ、神宮寺」
「そのままの意味だ」

言葉遊びのような応酬の後、挑発的にネクタイを掴まれ、引き寄せられて唇が合わさる。
どうやら、誘いを断られたというわけではないようで、聖川はほっと息を吐く。
背中に腕を回し、さらに身体を密着させると、神宮寺はぺろり、と自身の唇を舐めた。何か、面白い案が浮かんだというように、空色の瞳を輝かせる。

「神宮寺?」

そんな表情を知りながらも、聖川はこれから始まろうとしている行為に夢中で、神宮寺にも集中して欲しい。少し不機嫌に奔放な恋人の名前を呼ぶと、神宮寺はご機嫌を取るように聖川の首にぎゅ、と腕を絡ませる。

「いいこと思いついた、聖川」
「なんだ?」

仕方がない。会話が終わり、神宮寺が満足してから、事に及ぶことにしよう。

「交換日記をしよう」

---神宮寺レンの華麗なる提案---

日常生活を規則正しく送ることを、聖川は信条としている。
日々の鍛錬の積み重ねでしか、大業を成す事はできないのだ。
一方の神宮寺は、変化を好む性格で、聖川の性格を退屈だと感じている節はある。
だからといって、まさか二人の恋人同士の共同生活にも、マンネリ化を感じ憂うレベルだったとは、驚きであった。

ベットの上で言われたものだから、聖川は自分の一辺倒な攻めに神宮寺が飽きてしまったのではないか、と不安に見舞われていたが、彼の提案から決してそういうわけではなかった、と、そこは希望を持っていたい。

そこまで考えて、目の前の一冊のノートの真っ白いページに向き合い、迷子になっていた思考を元に戻した。

「しかし、何を書けばよいのだろうか……」

顎に手をあて思案する。今日は神宮寺は仕事で遅くなるため、急ぐ必要はないのだが、学生時代から宿題は早めに終わらせなければ気になって仕方ない性分だった。

一枚目の神宮寺の日記は、こうである。

《○月×日 神宮寺レン
 今日から聖川と交換日記を始めることになった。
 普段、お前は何を考えているか分からないところがあるからね、
 楽しみにしているよ。
 マンネリって言ってしまって傷つけたかな?ごめんね。
 ただ、お前と初恋から始めたいなって思ったんだ!
 明日は仕事で遅くなるから、ご飯はいらないよ。》

なるほど。そういう風に、思われていたのか。
確かに、何を考えているか分からないと言われることは多い。
これからは気をつけるとしよう。

聖川は姿勢を正し、鉛筆を持ち直す。
一度深呼吸をし、丁寧に文字を書き始めた。

********

「よし」

数十分で書き終えた後、聖川は満足げに頷いた。
普段あまり口にしない言葉でも、文字だとすらすらと表現できるものだと知った。
神宮寺の提案も、なかなか素晴らしいものだ。

明日、神宮寺がこれを読みどう思うだろうか。楽しみだ。
そう思いながら、聖川は風呂を沸かしに立ち上がった。







 

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