ゴーゴーウィズマイラバー
何か贈り物をしたい。
聖川に対してそんな風に思うのは珍しいことだった。
財閥の裕福な家に生まれたためか、誰かに何かをプレゼントすることに抵抗はなかった。しかし、逆に何かを受けとることには妙な心苦しさがあった。
若い頃、寂しさに負けて一時の遊びの恋愛に身を投じていたけれど、その時の記憶から逃げようとしていたのかもしれない。
端的に言ってしまえば、嬉しくないのだ。欲しいものを聞かれても分からない。その人が選んでくれたものだから嬉しい、などという情緒も一時しか続かず、どうも偽善的対応になってしまう。
聖川も物質的には恵まれて育っているためか、互いに物欲を主張することはなく、贈り物をし合うということは今までなかった。
何も期待しない関係だからこそ、聖川とは長く続いているのかもしれない。けれど。
少し寂しさを感じているのも、また事実であった。
*
「夏祭りに行かないか」
久しぶりにオフが重なった日のことだ。
クーラーの効いた部屋で、聖川は行儀よくソファーに座ったまま、新聞を読みながら提案してきた。
神宮寺はソファーの三分のニを占領してぼんやりと寝転がっていたが、その魅力的な誘いに長くくすぶっていた欲求を思い出し、頭がクリアになった。
「いいな。いつ?」
「今日、近くであるみたいだ。マンションの玄関口に貼ってあった」
「本当か?急いで準備しなきゃ」
神宮寺が立ち上がると、聖川は驚いた様子で新聞を畳み、目をやった。
「夕方からだぞ?」
「買いにいくんだよ、浴衣」
神宮寺はせかせかと部屋着を脱ぎ出す。外出用のTシャツとジーンズをクローゼットから取り出す神宮寺に、聖川は首を傾げながら笑った。
「浴衣?随分と気合いが入ってるな」
「買ってやるよ」
聖川に贈るのに、これほどちょうどいいものはない、と思った。以前雑誌の撮影で和服を着ていたときは、とても様になっていたのだ。
「別に誕生日でもなんでもないぞ」
不思議そうな表情を浮かべる聖川に、それもそうか、と笑ってしまう。けれど、退くわけにはいかない。
「いいの。ほら、お前、和服似合うだろ」
「どうしたいきなり。じゃあ、俺がお前のを買おう」
「……、まあ、いいけど」
少し不本意だが、一方的に贈られることを聖川も納得しないだろうと、神宮寺は了承した。
「じゃあ、早速出かけようか」
「あっ、待て」
ジーンズを穿き、最近購入したお気に入りのネックレスをつけてから、玄関に向かう聖川を追いかけた。
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