ゴーゴーウィズマイラバー

何か贈り物をしたい。


聖川に対してそんな風に思うのは珍しいことだった。


財閥の裕福な家に生まれたためか、誰かに何かをプレゼントすることに抵抗はなかった。しかし、逆に何かを受けとることには妙な心苦しさがあった。


若い頃、寂しさに負けて一時の遊びの恋愛に身を投じていたけれど、その時の記憶から逃げようとしていたのかもしれない。


端的に言ってしまえば、嬉しくないのだ。欲しいものを聞かれても分からない。その人が選んでくれたものだから嬉しい、などという情緒も一時しか続かず、どうも偽善的対応になってしまう。


聖川も物質的には恵まれて育っているためか、互いに物欲を主張することはなく、贈り物をし合うということは今までなかった。


何も期待しない関係だからこそ、聖川とは長く続いているのかもしれない。けれど。


少し寂しさを感じているのも、また事実であった。





「夏祭りに行かないか」

久しぶりにオフが重なった日のことだ。


クーラーの効いた部屋で、聖川は行儀よくソファーに座ったまま、新聞を読みながら提案してきた。


神宮寺はソファーの三分のニを占領してぼんやりと寝転がっていたが、その魅力的な誘いに長くくすぶっていた欲求を思い出し、頭がクリアになった。


「いいな。いつ?」


「今日、近くであるみたいだ。マンションの玄関口に貼ってあった」


「本当か?急いで準備しなきゃ」


神宮寺が立ち上がると、聖川は驚いた様子で新聞を畳み、目をやった。


「夕方からだぞ?」

「買いにいくんだよ、浴衣」


神宮寺はせかせかと部屋着を脱ぎ出す。外出用のTシャツとジーンズをクローゼットから取り出す神宮寺に、聖川は首を傾げながら笑った。


「浴衣?随分と気合いが入ってるな」


「買ってやるよ」


聖川に贈るのに、これほどちょうどいいものはない、と思った。以前雑誌の撮影で和服を着ていたときは、とても様になっていたのだ。


「別に誕生日でもなんでもないぞ」

不思議そうな表情を浮かべる聖川に、それもそうか、と笑ってしまう。けれど、退くわけにはいかない。


「いいの。ほら、お前、和服似合うだろ」


「どうしたいきなり。じゃあ、俺がお前のを買おう」


「……、まあ、いいけど」

少し不本意だが、一方的に贈られることを聖川も納得しないだろうと、神宮寺は了承した。


「じゃあ、早速出かけようか」

「あっ、待て」


ジーンズを穿き、最近購入したお気に入りのネックレスをつけてから、玄関に向かう聖川を追いかけた。





 

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