ラストフレーズはこちらから

強引に彼の狭い内側を押し開いていく。

神宮寺の引き結んだ唇に目が離せない。

辛そうに歪められた表情に罪悪感が浮かぶ。犯人は自分なのに、少しでもその痛みから救ってあげたくて、眉間にキスを落とす。

「すまない、痛いか?」

「っ……」


神宮寺はぎゅっと目を瞑り、首を横に振る。目の縁から涙の粒が流れた。

やはり痛いのだろう、挿入を急いだことを後悔する。


しばらく慣れるまで待っていようと、じっとしていたら、神宮寺の方から腰を引き寄せてきた。


「っ、神宮寺」


きつい締め付けに、聖川は自分の額にじわりと汗が浮かぶのが分かった。

「っ、待たなくて、いい」


甘えたような声と、すがるような表情に、まるで思いも通じあっているかのように錯覚した。


「神宮寺っ……」


体全体を抱き締めるように、距離を縮めていく。神宮寺の中は焼けるように熱く、聖川に貫かれることで時折発生する摩擦に、段々と反応するように変化していく。小さな収縮を繰り返し、聖川をしっかりと掴んで離さない。


「っ……あ…」


神宮寺が大きくのけ反り、喉仏が見える。「あ」という掠れ声に、聖川は満足する。痛みを我慢させるのは忍びないが、快感に耐える表情は堪らなくそそられる。


「神宮寺……!」


「あっ……ぁ…、聖川…」


ぐっと腰を進め、最奥を突く。神宮寺は首を左右に振りながら、ぎゅっと聖川にしがみついてきた。


名前を呼ばれた瞬間、これが独り善がりの行為ではないと実感できて、聖川に更なる快感が生まれる。


狭くて脆いパイプベッドが男二人分の重みにガタガタと揺れる。薄い壁も薄汚れたランプに、正直あまりムードある状況ではない。けれど、五感全てを神宮寺に奪われていてそれは些末なことに思われた。


「名前…、名前を呼んでくれ」


「ひっ、あ、……ん…」


「神宮寺……」


「聖川、…ぁ…」


耳朶に指を差し入れ神宮寺にねだる。胸の飾りを指先で弄りながら、これは本当にセックスだと、訳のわからない感動が生まれた。


神宮寺が、俺に抱かれている。自覚した上で組しかれ、快楽にむせび泣いている。


胸元に光るキスマークをなぞりながら、聖川は彼の首筋に噛み付いた。


この感情の名前は既に察しがついていた。けれど、告げることが出来ない。ただ雰囲気に任せただけの睦言だと思われたくなかった。


そんな的外れな理性は働くのに、頭を支配する快感を求める欲望は際限なく、聖川は激しく内壁を貫いて、高まった熱を彼に全て吐き出した。


射精感に脱力し、神宮寺に体を預けると、彼は荒い呼吸を繰り返しながら、重い、と胸を押してくる。


「それから、抜け」


「神宮寺、」


じっと顔を覗きこむと、目元を朱に染め瞳をそらした。可愛らしい様子にますますいとおしさが増して、聖川は体を密着させた。


「っ、離れろ」


「嫌だ」


頭をぐいぐいと押されるが、強引に抱き締める。と、急に弛緩し、大人しくなった。


「神宮寺」


顔を隠す腕を奪い、耳元で名前を呼ぶ。ぎゅっと、結合箇所が締まった。また固くしたら、萌えポイントがわからない、と言われそうだ。


「教えてくれて、ありがとう」


どう話を切り出すか悩みながら、とりあえずの礼を言うと、神宮寺は目を見開きこちらを見た。


「その、こんなシチュエーションで言うのも何なんだが…」


聖川の前置きに、神宮寺はふっと目を細め、聖川の唇を塞いだ。


「んっ……」


不意討ちのキスに動揺しながらも、聖川の唇は綻んだ。体に触れる神宮寺の屹立が固さを取り戻している。たとえどんなに憎まれ口を叩かれようと、それが何よりの答えだと思った。


彼をいかせてあげてから、これからのことをもう一度考えよう。


そう思考し、あとはひたすらに本能に従い、神宮寺の首筋に噛み付いた。




土曜日の朝の爽快感は、金曜日の夜にどれだけ優等生でいたか、による。

聖川は全身の倦怠感を振り払うように体を起こし、伸びをする。大丈夫だ、大量の酒を煽った時よりは、まだ調子がいい。少し肩が凝っているけれど。


隣の神宮寺は未だ眠っていた。壁側に小さく丸まって寝ている。やはり、男二人にセミダブルは狭い。彼も起きたときは、全身凝ってしまっているかも。


聖川は柔らかく笑み、カーテンを開けた。明るい光が差し込んで、清々しい休日が幕を開ける。


神宮寺が目覚めたら、近くのカフェで朝食でもとりにいこう。


色々と、聞きたい話題には尽きない。


とりあえずはこちらから、行動と言動がチグハグだった理由でも、告白してみようか。


スーツを手に取り着替えていたら、神宮寺がベッドの上で小さく身動ぐ音がした。



END




 

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