愛と本音と建前と
「聖川、お前は存外非道い男なんだな」
神宮寺は鼻で笑いながら、聖川に覆い被さる。体重が腹にかかり、顔をしかめると、ますます楽しそうだ。
「お前は、思った通り性格が悪い」
聖川が真顔で言うと、神宮寺はその反逆に一瞬虚を突かれたようだった。
聖川は神宮寺の様子に心が踊り、もっと彼の色々な表情が見たいと思った。不遜な態度も挑発的な表情もいいけれど、いまのように幼さを含む呆け顔や、花咲くような純粋な笑顔や、快感にむせびなくような顔も、きっとすごく、清浄で美しいのだろう。
思い出したように自身を固くした聖川に、神宮寺は密着していた腰を浮かせた。
「お前の萌えポイントがわからない」
心底引いた顔をしている。心外だ。
「俺もわからない。なあ、神宮寺」
「なんだ」
「俺が上になっていいか?」
正直に本心を告げると、神宮寺は無表情のまま聖川から離れ、ベッドに四肢を投げ出した。
*
「っ、く……」
あ、泣きそうだ。悲しいからなのか、気持ちよいからなのか、恥ずかしいからなのか。
神宮寺の固く猛った屹立を口に含みながら、聖川は彼の表情を盗み見る。複雑で、よくわからない顔。うっすらと目元を赤く染め、首を左右に振りながら、でも完璧に拒絶されることはない。
聖川は構わず進めることにした。当然男のそこをくわえたことなどなかったが、不思議と嫌悪感はなかった。むしろそれよりも、先端の窪みに舌を差し入れれば涙のように溢れてくる蜜に、誇らしいような満足感が生まれてくる。
「っ、う…、聖川…」
先端ばかりを執拗に責めていたら、神宮寺が聖川の髪をがしっと掴んだ。
「神宮寺、痛い」
顔を上げると、神宮寺は本気で苛立っているようで、聖川の抗議を舌打ちで一蹴した。
「お前しつこい、いい加減にしろ」
「しかし」
お前も気持ち良さそうに、こんなに固くして、先走りを溢しているじゃないか。浮かんだ反論は、神宮寺の次の言葉にかきけされた。
「入れたいか入れられたいかはっきりしろ」
聖川は神宮寺の言葉に開いた口がふさがらなかった。
「入れていいのか」
いや、上になっていいか聞いたのはこちらだが。入れるか入れないか、具体的にイメージしていなかった。神宮寺を握っている手を、背後へと移動させる。
固く閉ざされた狭間に指先で触れる。入るのだろうか。
「入れたいのか?」
「上がいいと言った」
「確かに、聖川が跨がる姿は想像できないな」
神宮寺はからからと笑い、聖川の首に腕を絡めた。腰を上げ、入り口を戸惑いながらなぞっていた指先を、さらなる奥へ導いてくれる。
「いやな想像はしないでくれ」
「どうしてだよ。そうだな、聖川なら、絶対下だろうな、騎乗位はありえない。しかも、最初は嫌がるだろう。清純ぶって」
神宮寺が嫌がらせを続けるので、聖川は容赦なく彼の中に指を侵入させた。入った。しかし、すごく狭い。
「ぁっ……痛いよ、馬鹿」
「すまない」
背中を足で叩かれ、こちらも痛い。しかし素直に謝って、空いている手で神宮寺の先走りを拭い、潤滑油の代わりに入り口を濡らす。
「っ、ん……ぁ」
「本当に入るのか?」
入り口の圧迫感がすごい。指一本でこれなのに、果たして繋がることができるのか。
「っ、知らねえ、よ!…あぁっ、」
内部で人差し指を曲げると、神宮寺は痛いのか気持ちいいのかわからない声を上げた。
「知らないってまさかお前、」
初めてか、と聞く前に、内壁が強く収縮した。ちょうど性器の内側の、固いしこりの部分を掠めたときだ。
前立腺と言っただろうか。聖川は神宮寺の高い喘ぎに、一気に行為に没頭し始めた。
「あっ……ぁっ…」
「泣くほどいいか?」
目元に浮かぶ滴を舐めて、耳朶を甘噛みする。そのポイントを重点的にぐいぐいと押すと、内壁は面白いほどにうねり、屹立は溢れるほどの涙を滴らせた。
「はぁっ…そこばっかり、や……」
「お前も嫌がるじゃないか。清純ぶって」
聖川に自然と笑みが浮かんだ。
今この瞬間は、自分は神宮寺を征服している。普段は飄々としてつかみどころがなく、聖川にはないものを持っている、ライバルと言われている男、神宮寺レンを。
あの夜のことや、枕営業の真偽など、本当はどうでも良かったのかもしれない。ただこの男を独占し、全てを暴きたかったのだ。
聖川は挿入する指を増やし、神宮寺の額にキスを落とした。
「わかった気がする」
「ぁっ……ん、聖川……?」
「気持ちいいと、「あ」で啼くんだな」
「は……っ?」
「まだ我慢できるときだと、「う」だ。後ろだと、そうはいかないみたいだな」
「っ、」
神宮寺の頬が朱に染まり、聖川から視線をそらした。無理やり顔を向け、唇にキスをする。
「ん、……ぅ」
唇を強く吸い、乱暴に蹂躙する。後ろに入れていり指も、入り口を拡げるように掻き回した。
自分にこれほどの強い衝動があったのかと、聖川は驚かされた。
自分の手によって変化する神宮寺の一挙一動を、しっかりと目に焼き付ける。
「聖川、ぁ……」
「もうそろそろ、いいか?」
充分に解かされた其処に、屹立を宛がう。逃げるように浮かされた腰をぐっと押さえつけ、聖川は神宮寺に聞いた。
本当はすぐにでも繋がりたかった。けれど指を抜いた其処は元通りに閉ざされていて、正直にいうと恐くなった。
神宮寺はひくっと喉を鳴らすと、ご自由にどうぞ、とおどけた。
「念のため確認だが、経験は?」
先ほど聞きそびれた確認を取ると、神宮寺は無表情のまま顔を覆った。
その様子に確信が持て、同時に今までの疑惑は勘違いだったと悟る。押し付けていた屹立が硬度を増すと、神宮寺は震える声でこう言った。
「お前の萌えポイントがわからない」
いや、これは分かるだろう。聖川は心の中で反論し、神宮寺の腕を取り退けた。
嬉しい。ありがとう。愛してるよ。
そんな気障な台詞を口付けに込めて、ゆっくりと腰を進め始めた。
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