理事長 V
す、すげぇ...!あの花ノ下を有無を言わさずに...いや有無は言ってたな。うん。語弊語弊。でも凄い。
「ごめんねー、煩いでしょう?あの子」
理事長パワーに関心していると、こちらを向いた理事長が花ノ下の出ていった方のドアを見て苦笑いする。
「まあ...煩くないと言ったら嘘になります、かね」
「うん、君は素直ないい子だね!」
理事長は俺の答えに口元を綻ばせると、ゆっくりと口を開き「でもね」と続けた。
「時にはそれが仇にもなる」
「...?」
突然、理事長の声のトーンが変わったように思える。
驚いて理事長の方を見ると、理事長はあのバカっぽいハートのサングラスを取り、何かを観察するような、少し、いや、だいぶ居心地の悪い眼差しをこちらに向けていた。
「さっきは特に何も無いと言ってたけど…実は、君に聞きたいことがあって呼んだんだ」
「聞きたいこと、ですか」
「うん。君も知ってると思うけど、この学園は今酷い有様でしょ?私も勿論、そのことは知っている。でもね、だからと言って私が手を差し伸べるのは違うと思っているんだ」
“知っている”
普通の学校の理事長ならば、自分の学園がこんな状況にあったら、真っ先に原因であるものを排除しどうにかするはず、
しかし、この理事長はそれをしなかった。
なんだが頭が痛くなる話だな、と思いつつも、まずなんでそんな話を今自分にされているのかが分からず、どうも話に集中出来ない。
「学校は私達教員じゃなく、生徒達の舞台だ。一つの大きな舞台で、そこで何をするのかは生徒達の自由」
“その舞台の内容は人によって様々で、喜劇かもしれないし、悲劇かもしれない。“
「私はそんな彼らの舞台に極力手は出したくない。僕達は君たちの手伝いをするだけだ」
「は、はあ....」
───つまり、どういう事なんだ。
来たばっかの学園の理事長にそんな話をされても何一つピンとこず頭を捻らせていると、理事長はそんな俺を見てまた楽しそうに笑った。
「ふふ、分かってない顔をしてるね」
「す、すみません...」
「あはは!全然いいんだよ分からなくても!」
__少なくとも、今はね。
最後の理事長の言葉に少し引っかかるものがあったが、その事について聞こうとする前に理事長室の扉を誰かがノックした。
「入っていいよ」
「失礼します理事長、生徒会長の西園寺です。先程から電話をかけているのですが···」
扉を開けてニコニコとした爽やかな笑みを浮かべながら部屋に入ってきたのは昼のアイツ、生徒会長の西園寺竜二だった。
昼に会った時とは大違いの爽やかな笑みを浮かべて理事長に笑いかける西園寺はこちらに気づくと、面白いぐらいに笑顔がひきつった。
「ああ西園寺くんか、いやいやごめん!携帯忘れちゃってね!どうしたのかな?」
「そうだったのですか、大丈夫です。···ああ、一応機密事項なので前川くんは席を外して貰えるかな」
「え?あ、はい····わかりました」
これはすげえや·····ここまで違うと本当に別人みたいだ。
そんなことを思いながら理事長室を出ようと西園寺の隣を通り過ぎようとする、と、その瞬間、西園寺が俺にしか聞こえないくらいの声で
“あとで生徒会室に来い”
と、全く笑みを崩さず、かつドスの聞いた声でそう言った。
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