こんにちは V




「──ろ、起きろ」

「…ん、たかと…か?」

「なぁにアホ面晒してんだよ。もし俺じゃなかったらどうするつもりだ?バカにされんぞー」

「ふ、ぁ、…お前以外に、ここに来る奴はいねぇよ」

「まあ、確かにな」

「…何しに来たんだ?」

「起こしに来たんだよ」

牙介の隣に腰掛けた貴斗は、まだ眠そうに手の甲で目をこする牙介をちらりと見てふわりと優しく目を細めると「ほらよ」と言って牙介に缶コーヒーを渡した。

「無糖」

「おう」

「…飲めない」

「知ってる」

「…」

牙介は舌打ちをしながら貴斗の足を強く蹴った。
つもりだったのだが、当の貴斗は全く痛そうでもなく、楽しそうに喉を鳴らしながら笑って「冗談だよ、お前のはこっち」とラベルにいちごの絵がプリントされた牙介のお気に入りの『みんなのいちごミルク』を手渡してきた。

「最初っから渡せ」

「こっちのほうが楽しいだろ?…ああ、んなことよりよ、お前は今日もここで愛しの山道クンをストーカーしてた訳だが」

「…」

「痛い痛い、無言で蹴ってくんなって」

「…次変な事言ったら追い出すからな」

「ごめんって、…あー、まあ俺が言いたいのはだな、お前は山道通に1回くらいは話しかけたりとかしたのか?ってことだよ」

牙介はその言葉にピクリと肩を揺らす。

「その様子だと話してなさそうだな」

「…るせ」

「そんな君に一つニュース!」

眉を吊げこちらを睨む牙介を無視し、貴斗は意地の悪そうな笑みを浮かべた。

「山道は明日練習試合があります」

「…?だからどうした」

「えー?よくあるだろ、ほら、頑張ってください!応援してます!私のために勝ってみたいな?」

貴斗は両手を自分の口元に持っていき腰をくねらせて牙介を上目遣いに見るが、牙介はそんな貴斗を「キモい」と一蹴した。

「…まあそういうと思ったけどな!お前の好きにすりゃいいと思うぜ、俺は。…じゃ、俺トリシメの仕事あっからもう行くわー」

「…わかってる」

牙介は「ちゃんと部屋戻れよー」と言ってドアへ向かう貴斗の背を横目で流し、開けたままだった窓の外へ目を向ける。


──どうせ、叶わない。

男同士で、尚且つ全く可愛くもない自分。絶対に叶うわけがない恋だと分かっているのにどうしても胸が苦しくなる。

( 好きになるくらいは、いいよな )

手に持っていたジュースのパックをぐしゃりと握りつぶすと、飲み切れなかった中身が手から床にポタポタと滴り落ちた。

指を垂れる感覚が心地よく目を瞑る。胸焼けしそうな甘い匂いの中、牙介は二度目の眠りについた。







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