こんにちは U



<旧校舎1階 被服室>


金属特有の心地よい音がグラウンドに響く。
目の前に広がる土の上では微かに砂埃が上がり、自分には理解できない掛け声が飛び交っている。

わぁっと歓声が上がると、一人の青年の元に数人が走っていき、そして全員がその青年に飛びついた。

その中心にいるのは、牙介が絶賛片思い中の山道通その人であった。


「…かっこいいな、ほんと」


仲間と共に汗を流し部活動に勤しむ山道を眺めるのが最近の牙介の日課になっている。

牙介は野球部に所属している山道が毎日朝と放課後はグラウンドにいるということを風の噂で──クラスのおしゃべりなちっこい奴が話していたのを聞いていただけだが──知った。
それからというもの自分は野球部がグラウンドを使っている時、旧校舎の2階の1番グラウンドに近い場所にある今はあまり使われていない被服室に篭もり山道を見ることに決めている。

既に牙介がここに入り浸っていることは学園中に知れ渡っている為、無闇にここに立ち入ろうとする愚か者はいない。その為誰にも邪魔されることのないここは、牙介の絶好の観察スポットだ。

ぼうっとしていると、また心地の良い金属音が響き歓声が上がる。様子から察するに、どうやらまた山道が打ったようだ。

──凄いなと思う反面、自分には到底手の届かない相手だという事実をあらためて目の前に突きつけられている気分になる。

ちくりと痛む胸を舌打ちで誤魔化し、頬をかすめる心地よい風に身を委ねるように静かに目を閉じた。





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