こんにちは T
相模牙介は思う、なぜ自分は教室に来てしまったのだろうか。
──先日貴斗と話した末自分は山道通に恋をしているという結論に行き着き、「授業に出る」と言ったからなのだが──周りを見ると、やはり自分という異質な存在に対しての困惑の目が大半、そしてその中には、新学期早々の山道に対する対応を見ていたからであろう、牙介に対して完全な嫌悪を抱いた視線もちらほらあった。
やっぱ、帰りたい。
実は、牙介は貴斗と話し合った次の日から教室に行こうと思っていたのだが本当は暫く行けていなかったのだ。
理由はただ普通にこんな風に嫌な視線を向けられるのが怖かったという単純なものなのであるが──つまり自分は新学期から1週間ほど教室に顔を出していなかったのだ。
そのおかげか、『なぜお前がいるんだ』という類の驚きの声もいくつか聞こえる。
「ねえ山道くん!近々このクラスに転入生が来るんだって!」
「へぇ!そうなの?楽しい子だといいね」
「うん!」
平然を装い、声のした方へ目を寄せる。
そこには山道通と談笑する小柄な可愛らしい生徒の姿があった。山道の隣に並び、目と目を合わせ言葉を交わす姿に、『羨ましいな』と、素直にそう思う。そんならしくもないことを思う自分が嫌になり、深いため息をついて気を紛らわせた。
それにしても、こんな時期に転入生が来るのか。その事に少し不思議に感じたものの、牙介はきっと自分には到底関係の無いことだと考え、すぐに頭の隅に押しやった。
──そして数日後、奴がやってきた時に、俺は結構後悔することになる訳なのだ。
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