おはよう U




「ねぇ、君の名前は?」


1年間よろしくねと差し伸べられた手を他人事のように見つめた牙介は、なんかコイツいい匂いする、なんて。『紅龍』らしからぬことをぼーっと考えていた。


牙介は内心、とても焦っていたのである。


──理由は多分、この原因不明の胸の高鳴りのせいだろう。どんどん動機が早くなり、しだいに息が苦しくなってくる。

返事を返した方がいいのか、それとも無視した方がいいのか、牙介は混乱する頭で一生答えの出ることのない自問自答を必死に繰り返した。


「え、ねえちょっと、山道くんアイツに話しかけてんだけど」



────ッ!



その声が聞こえた途端、牙介は自分の前に差し伸べられた手を弾き、カバンを乱暴に掴んで廊下に出た。


扉を開けたまま出てきた教室の中から「うっそ、なにあれ!折角山道くんが話かけてあげたのに、サイテー」「でも、山道くんもやめなよ、あんな奴と話すの」などと自分を中傷する声が聞こえた。


が、今はそんなことよりもさっきから収まらない胸の高鳴りをどうにかすることが先だと、いつもの溜まり場にいるであろう数少ない友人の元へ、ひりひりと痛む掌を庇いながら足早に向かった。








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