おはよう





新学期。

がやがやとうるさい教室の中、新しいクラスとその仲間達の顔ぶれに安心する者と、落胆するものの二つに分かれる。

大体は五分五分の割合だが、今の教室の様子を見ると、大半はまだ見ぬこれからの日々に心を踊らせているように思える。



しかし、その中に1人異様な存在感を放つ男がいた。

眩しいほどの赤色の髪に、獲物を狩る獣の様な鋭い瞳。名を相模牙介、別名『紅龍』泣く子も黙る一匹狼。

中学の頃から流血沙汰の噂が耐えず、教師も含み誰もが恐れ戦く存在。

しかし、紅龍に半径1m以内近づくと問答無用で地獄送りやら目が合うと三日は寝込むとか。そんなものは全て嘘八百なのである。

そう…牙介は世間一般で言うヤンキー、つまりは、ただの髪が赤いだけの男子高校生なのである。

それをどこで間違えられたのか、最強だなんだと謳われて、周りから寄せられる陰口や疑念と困惑の視線をひしひしと肌で感じている牙介は「帰りたい」と、強く思っていた。

牙介は決してメンタルが強い方ではない。

弱いわけでもないが、周りから寄せられるダイヤモンドレベルの期待には答えられないのだ。悲しい時は悲しい、無論、恐れられるのもいい気はしない。というより普通に腹立つ。

ふと教室の中にいた名前も知らない青年と目が合った。牙介からは特になんのアクションも起こさなかったのだが、その青年は自分と目が合った瞬間一気に顔を青くして、あからさまに「やっちまった」という顔のままそさくさと教室から出ていった。


…うん、今日はもう帰ろう。


あのなんとも言えない表情を向けられるのはもう慣れたつもりだったが、やはりむかむかする気持ちは抑えられない。

牙介はさっさとこのアウェイな空間から出ていくために机の横にかけたカバンに手をかけようとするが、そこでふと自分に影がかかるのを感じた。


「ねぇ、去年は俺たちって別のクラスだったよね?」


────なんだ、コイツ


それが牙介の率直な感想だった。

理由は簡単だ。自分的にはすごく不本意なのだが、周りからこれでもかと恐れられる自分にタイマン以外の理由でまだ話しかけてくる奴がいたのか、と。そう思った。

牙介は不思議に思いながらも声のした方にゆっくり顔を上げた。


「俺の名前は山道通、変な名前だろ」


そう言って、焦げ茶色の髪を揺らし、日に焼けた肌の青年────山道通は、目を見開く牙介の顔を真っ直ぐ見て、屈託のない爽やかな笑顔を向けた。




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