はじまり T
<2年寮 304号室>
月曜の真っ昼間、牙介と流音と貴斗の3人は、授業中にも関わらず寮の部屋に集まり、ソファの上で足を抱き嘆く牙介を取り囲んでいた。
「ううううう」
「うううううううう」
「リュウ、ウザいぞ。ほら、コウも泣きやめって」
「うう…ないてねえ、」
「ううううこうぢゃん"ん"」
貴斗は強がる牙介に溜息をつきながら、何故か牙介の隣で涙を流す流音の額にデコピンをくらわせた。
「い゛ぃった!?え?!なに?!」
「なんでお前が泣くんだよ」
「悲しいから泣くんやん!!アホなん?!?Aの癖にアホなん?!」
貴斗の指に弾かれた所を押さえながら貴斗を睨む流音に、貴斗はまた深く溜め息をつき、今度は牙介の頭に優しくチョップした。
「あぅ」
「おら、牙介。もう泣くなって」
「……だから、泣いてねえ、」
「はいはい、ほら、顔上げろー」
貴斗はうりうりーと言いながら、膝を抱える牙介の手をつつき出す。牙介は、組んだ腕の中からじろりと貴斗を睨むと、ゆっくり顔を上げた。
「えー??おかしい、おかしない??なんなん今の優しいチョップ。それに比べてなに?俺に対するあの全力のデコピンは!!ていうかこうちゃん『あぅ』って言った?」
「お前とコウは別枠だろうが」
「言ってない」
「まさかの枠外!!ていうか絶対言ったーーかわいいーーめっちゃかわいいーーー」
「リュウうっざ」
「流音、うるさい」
「…」
牙介と貴斗に咎められた流音は、唇尖らせ先ほどの牙介のようにソファの上で足を抱え拗ねたように「どうせ俺は邪魔者ですよ!ええもん!彼氏に癒されるわ!」と言ってスマホを弄り出した。
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