こんばんは T






<2年寮 304号室>


「つかれた…」

寮のドアを開け乱暴に靴を脱ぎ、共同スペースにあるソファに飛び込む。ふかふかのソファに体が沈み、ドッと疲れが押し寄せた。

「お、帰ったん?お帰りー」

個室から出てきた同室の男──山鹿木流音は、ソファに体を投げ出している牙介を見て、「お疲れやなー」と言って牙介の足を下におろしそこに座った。

流音は、去年も牙介と同室で、人の本質を見るのが得意なのか、牙介が実は周りが言うような奴じゃなく本当は優しい青年だということを見抜き、普通の友達──というかけっこう親しい仲なのだ。

「で、なんかあったん?」

「……山道と話した」

「…えっ?!ほんまに?!凄いやん!」

流音は、持っていたマグカップを机に置いて牙介の腰を強く叩いた。

「いやー!牙介にしては頑張ったやん」

「…いたい……」

「照れてんのー?もうほんまこーちゃん可愛いわー!」

ソファに突っ伏したまま耳を赤く染める牙介を見て、流音はガバッと牙介に飛びついた。

「いやぁほんま、今年も同じ部屋になれて良かったなぁ」

一緒になった、と言うより、一緒にされたと言う方が正しいのだが、と牙介は思う。

大方俺を流音以外の奴と同室にしたら、暴れるとでも思ったのだろう。そう思うと、流音は立派な猛獣使いか何かだ。

「あ、それよりこーちゃん、明日こーちゃんのクラスに転入生来るらしいな」

「…なんか、聞いた気がする」

「もー!忘れたアカンで!重要なことやん!」

流音は頬を膨らませながら牙介の頬をむにっと抓る

「…ひひゃい」

「痛くしてるんやで」

「はなひへ」

「しゃーなしやで」

牙介は話された頬を慣らすように揉み込む。自分でも結構柔らかいと思う頬はまだ痛みが残ってヒリヒリする。

「で、その転入生がなんや変な感じらしいで、なんて言うか…ルックス面でずば抜けてるらしいで」

「…可愛いのか?」

「いや、その逆。ていうか…なんていうの?顔が見えへんらしいんよ、ありえへん毛量とドギツイ度のメガネのせいで。」

「ありえへん毛量…ドギツイ度の…メガネ…?」

ダメだ、わからない。そんな人間この世に存在するのか。

顔が見えないほどのありえない毛量…

「まあ取り敢えず近づかんほうがええんちゃう?って事やな。可愛い可愛いこーちゃんになにかあったら俺泣いちゃうからな」

「…別に、俺はかわいくない」

「そういうところが可愛いんやん!いやー平々凡々な俺やけどこーちゃんとこうやってベストフレンドになれたことだけは誇れるわ」

そう言って笑った流音は隣に座る牙介の頭を撫でた。

「…俺も」

「あら嬉しい」









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