こんにちは IV
牙介の目が覚めると、窓から見える空は既に赤く染まり、外から漏れた光が被服室の中を赤く照らす。
イスから起き上がり、教室の壁にかかっている時計に目をやる。
針は6を少しすぎたところを向いていて、既にほとんどの生徒が量に戻っている時間だった。
「…?」
牙介ももう帰ろうと立ち上がったが、そこで自分が鞄を持っていないことに気づいた。──教室だ。
めんどくさいが、鞄の中には携帯も入っているので取りに行く他ない。牙介は小さくため息をついて被服室をあとにした。
<本校者2階 2-B>
教室のドアを乱暴に開けると、中には人はいず、少しだけ空いた窓から漏れた風にカーテンが揺らし、幻想的な風景をつくっていた。
自分の席に目を向けると、鞄はかかったままになっていた。
「あ、」
鞄を肩にかけようと手を伸ばした時、ドアの方から声が聞こえた。バッと後ろを振り返ると、そこには山道通が立っていた。
通の姿を確認した途端、牙介は自分の胸が締め付けられるような感覚を覚えた。
「相模、久しぶり」
通は牙介を見て優しく目元を緩めた。
「…」
「前から話したいと思ってたんだけど、なかなかチャンスがなくて。だからラッキー」
へへ、と笑いながら山道は牙介の立っている横の席に腰掛けた。
牙介は混乱していた。なぜ自分の前に山道が?なんで俺の名前知ってるんだ。それに前から話したいと思ってたって。バクバクとうるさい心臓を落ち着かせるように牙介は1度目を瞑り深く息を吐いた。
「ていうか、相模ってめったに笑わないよね、かっこいいんのに勿体ない。会話のキャッチボールしてるとこ見たことないし、」
「……べつに、それくらい、できる」
「あ!喋った!」
牙介が声を発したのがよっぽど嬉しかったのか、通は満面の笑みを牙介に向けた。
「……」
ダメだ、このままここにいたらしぬ。
緊張とかそういうのでしぬ。逃げないと。
牙介は、まだ何かを話し続ける通を無視し、教室を出よう通に背を向ける。そこでふと、牙介の頭に貴斗の言葉が浮かび、ドアへと向かう足が足が止まった。
「……あした、」
そこまで言って、ハッと我に返る。────自分は、何を言おうとした?そんな事言っても、どうにもならない。馬鹿を見るだけだ。
「相模?」
「……何でもない」
牙介は前を向いたままそれだけ言い残して教室を後にした。
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