夢を見た。
内容なんて思い出そうとする必要もない。出てきた人物の顔でわかる。そう、どうせもう知ってることなのだ。ああ、あの夢か、と。

前世来世なんてこれっぽっちも信じる気はない。そんな思想俺には向いてないのだ。もし仮にあの何度もみる夢の正体が前世なんていうものとしたら、自分はどれだけの信仰者だったのだろう。だって生まれ変わらせていただいてるんだから。なんて思うけど、あれが前世だとして、その夢の中の自分はいつだってどこか死んだ目をしてて(今となんら代わりはない)、お世辞でも信仰心が高いとは思えない。神や仏の。だって他ならぬ俺なんでしょ。
幼い頃から見るその夢を俺はもうとっくのとうに受け止めていた。

だから、あのクラスの担任になったときは早々たる面々に頭が痛くなった。だってそいつらは俺の夢に出てきたやつばかり。いや、出てきたやつしかいない。神様仏様俺前世で何かしでかしたのでしょうか。あれか、信仰心がないのに生まれ変われたのはこれか、俺に何かを償わせようとしてるのか。

「先生、」
声がするほうに顔を上げると整った顔、俺のコンプレックスを刺激するストレートの黒髪が目に入る。「あ、はい、委員長、号令」そう返してやるとそいつは「先生しっかりしてください」だなんて無駄口を叩きながら号令をかける。しょうがねえじゃん。あの夢を見ると頭がぼーっとするんだから。
なんとも言えない感覚。
しかもその上、お前の顔なんか見たらどうしたらいいかわかんなくなる。
頭に浮かぶのは純粋と潔癖の塊(あくまでイメージである)のこいつからは想像もできない欲に溺れた表情熱に浮かされた白い頬、体。それでいて鼓膜を震わせる甘い声。それは夢の中の出来事で実際に起きたことではない。いや、前世という世界では起きたことなのかもしれないが、しかしだ。夢の中のこいつは姿形は一緒でも着てるもの、そして喋り方も全く違う。その上俺の恋人などというからびっくりする。ああ、頭痛い。前世の俺は何を考えてるんだ。いくら顔が整ってるからって、男と恋仲になるなんて、ああ、馬鹿げてる。


「先生、頼まれたプリント持ってきました」
放課後の国語準備室もとい、俺の私物化されてる部屋に桂はやって来る。否、自分が来させたのだが。委員長だからなんてもっとな理由をつけてこいつを縛ってる。ただの教師と生徒なのに。夢のように恋仲なんてものじゃないのに。「ん、御苦労」そう言ってさらりとした頭を撫でてやる。いつしか、俺はお礼という名目でこいつの頭を撫でるのがお決まりになった。「ちょっと…っ、子供扱いはやめてください」なんて顔を真っ赤にしながらいう桂が可愛くて始めたのだが、今では諦めたのか、そんな言葉は飛んで来ない。ただ頬を真っ赤に染めるだけだ。そんな桂を見て、抱きしめたいだとかキスしたいだとかもっともっと欲が募っていくのを俺はもう見逃せなくなっていって、自分のこいつへの想いを自覚するのだ。
前世よりもっと馬鹿になってるな自分。馬鹿じゃねえの俺とこいつは教師と生徒なのに。
そして自分と相手の埋められない距離を実感しては胸を痛めるのだ。本当馬鹿な自分。

「先生、どうしてそんな泣きそうな顔してるんですか?」
「んー、ヅラくんなに言ってんの?」
「ヅラじゃありません、桂です。でも先生泣きそうです。どうして俺の頭を撫でて泣きそうになんですか?」

それはお前に焦がれてるからだよなんて口が裂けても言えそうにない。
助けてよ。夢で見るんだ。泣いてるお前ではないお前を。俺に裏切られてなくお前。それでも寂しがり屋な俺のそばにいてくれるお前。そんなお前をいつまでたっても手放せてやれない俺。ああ、本当いつまでたっても俺はこいつに焦がれている。それでいてこれをお前は覚えてないんだろ。覚えてなくていい。俺だけでいい。これは俺への罰なのだ。お前をたくさん傷付けてきた俺への罰。だからこんな風に焦がれて苦しむのも仕方がないことなのだ。なのに罰を受ける俺にお前は言う「先生、俺夢を見ました」

先生が泣きそうな顔で俺を愛してくれている夢でした。


思い出さなくていいよ

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3Zは生まれ変わりを激しく推します。
全部覚えてる銀八と所々夢を見ながらそして確信は持てないけど覚えてる桂くんとか堪らないです…!
それを伝えたくてパッションだけで書いたら意味不明な文に。パッションだけじゃだめですね。反省。


12/11/21
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