とある山の中。
1人の男性が山を歩いている。
山登りにしては、散歩の途中とも見えるような軽装のこの男性は、
山道を苦とせずどんどん山奥へ入っていった。

山道を進むと、獣道が別れた場所へたどり着いた。
片方は、日が当たる明るい道。
片方は、鬱蒼とする木々に覆われる仄暗い道。

男性は、チラリと明るい方を見たが、迷いもせず暗い道へと進んでいった。

しばらくすると、道端に小さな祠が立っていた。
男性はじっとその祠を見ると、しゃがみ込みゆっくりと手を差し出した。

祠に触れる直前、急に突風が吹き、驚いた男性は立ち上がった。

「何してるの?」

今まで誰もいなかったはずの背後から、急にまだどこかあどけなさを感じる、
少女の声が聞こえ、男性が振り返るとそこには、不思議な少女がじっと男性を見つめていた。
まだどこか幼さも残る少女だったが、目の鋭さは恐れを感じるほどの力強さがあった。
そんな少女を見た男性は、恐れるどころかニヤリと微笑むと、ゆっくりと少女に近づいた。
男性が近づいてくる為、少女が警戒を強めた。
男性はそんな少女を見て微笑みながら彼女の正面で立ち止まった。

「ただいま」

目の前で笑顔で言葉を発した男性に、今度は少女が驚いて男性を見つめた。

「綾…っち…?!」

じっと男性の目を見ていた少女が、驚いて名前を呼ぶと、
男性は小さな破裂音と共に湧き上がった煙に包まれ、煙が晴れると同時に、
そこには少女と同じくらいの少女が、まるでイタズラがバレたかのような笑顔で立っていた。

「ただいま帰りましたぁ!杏ちゃ〜ん♪」
「ちょっ?!今までどこ行ってたの!!!」
「いろいろと…転々と?」
「皆心配してたんだよ…心配しすぎて、亜梨ちゃんなんてめちゃくちゃ怒ってるからね…」
「ですよねぇ…」
「覚悟したほうがいいよ…」
「うへぇ…」

2人は知り合いだったらしく、仲睦まじく言葉を交わしながら、
祠を通り過ぎ、薄暗い山の奥へと入っていった。


世界には、人間が知りえない所で、妖怪やいわゆるお化けという存在が、
人間とは関わらない場所、山の中であったり海の中であったり、様々な所で存在している。
彼らは、人間のようにコミュニティーを作り、気の合う者や目的を同じくする者、
人間の家族のように出生を共にする者等、集まって存在していた。

中には人間と関わり、共存する者や敵対するような者達もいたが、
この山の中にも結界を施すことでコミュニティーを保っていた者達がいた。

先程の少女達も、そのコミュニティーの一員のようで、
彼女達のコミュニティーは、この山を拠点としたグループのようだった。

男性から少女へと変化をした少女、綾子は頭上には丸い耳、
そして尻には太い尻尾を備える化け狸の一種で、人間へと姿を変えることができる者だった。


一方、綾子に声をかけた少女、綾子に杏と声をかけられた少女は、一見普通の人間の少女にも見えるが、
人間だと思っていた男性が、綾子へと変化したことで、身内だったことを知ったせいか、背中から大きな羽を出した。
どうやら、彼女は天狗のようである。

2人が話しながら進んでいくと、その一帯は結界がはられているのか、
先程の祠を過ぎた辺りから、鬱蒼とした道だったはずが、
明るく穏やかな雰囲気を醸し出す場所へと変化していた。




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