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「って、ちょっと待って!綾ちゃん、他のコミュに入ったの?!」
「入ったと言っても、結界の中に入ったって意味で、一員となるためとかじゃなくて、
侵入って意味ですよ海里さん?ほら、私得意の迷子作戦で…」
「…本気で迷子になった…んじゃないんですか?」
「流石璃尾狐さん…お目が鋭い…」
迷子になって放浪していた時、他のコミュの結界に入り込んだことのあるとの
衝撃的な告白を聞いた亜梨馬と杏は、顔を見合わせてため息を付いた。
「で?それいつの話?」
「今回の旅が始まってすぐだから…数ヶ月前ですねなつさん♪」
「攻撃されなかった?痛いことされなかった?」
「大丈夫!琉紅さん!変化はお手の物だし、結構大きなコミュだったみたいで、
1人増えてもバレなかったですよ…一応、派手な動きはしませんでしたし、
念の為狐には化けてたんで…ただ、長は流石に気がついてたかもしれませんが…」
この世界で、妖怪達は皆仲が良いとは限らなかった。
コミュニティーによるが、勢力を拡大するため、他のコミュニティーに攻め入ることだって少なくはなかった。
結界の中に不法侵入する。
それは、見ようによっては侵略行為であり、排除されることも稀ではなかった。
それを知る亜梨馬と杏は、一瞬その時の報復かとも考えたが、綾子が無事に戻ってきて、
また綾子の不法侵入から暫く経っていることで、比較的友好的なコミュであると判断した。
「お前な…今後不用意に他のコミュに立ち入るな!ここまで…皆まで危険が及ぶだろ!」
「大丈夫ですよ亜梨ちゃん…だって、そこが友好かそうじゃないか位、すぐわかりますもん…
それに、この化け狸の変化は、そう簡単に破られませんよ…」
自らの変化に絶対的な自信があるのか、そう言って笑う綾子に、
亜梨馬はため息をつき、杏を見て話の進行を任せた。
「それに、万が一侵入した先が、ここに危害を加えそうな集団でしたら、先に潰しますもん…
いくら敵対すると言っても、先手打って中から壊滅させれば問題はないと思うんですよね…」
「怖っ…綾っち、自分で思っている以上に力あるんだから、やめてよ…
思った以上の問題行動になるんだから…」
「は〜い!気をつけま〜す」
相変わらず、笑顔を崩さずに物騒なことを言う綾子に、その笑顔にすら恐怖を抱いた杏は、
とりあえず綾子に釘を指すことにし、話を元に戻した。
「ともかく話を戻すけど、そのコミュの一員かもしれないという狐が紛れ込んで、
今綾っちの幻術で迷わせてるんだよね…で、これからどうする?」
「あの…ね、綾ちゃん…綾ちゃん、狐で一回そのコミュに入ってたなら、
もしかしたら覚えてるかもしれないし、その時みたいに狐になって迷子さんと話ししてきたらどうかな?」
今までの会話を聞いていた琉紅が、ふと思いついたように綾子に問いかけた。
「そっか琉紅さん!その手が…!!」
失念していた…と、軽く手をポンッと叩いて、早速出ていこうとする綾子を、杏が首根っこを抑えてとどめた。
「ぐぇっ…」
「ちょっと待った。これだけ大きな幻術使っておいて、いまさら狐の姿で出ていったら、余計怪しまれるでしょ綾っち!」
「あ、そっか…」
「まぁ、第一段階の対処として、侵入者には幻術は有効だから、間違いではないけど…
これで変化はやりにくくなった…さて、これからどうやって帰すか…」
亜梨馬が腕を組み、困ったようにつぶやくと、綾子が口を開いた。
「とりあえず幻術解いて、ここに招きます?侵入した理由も聞きたいし…」
「でも万が一、敵対してたらどうします?さっき、綾ちゃん言ってたじゃないですか…
見た目で判断してはいけないって…むしろ、このままどうにかして出口に誘導したほうがいいかと思いますが…」
「でも、璃尾ちゃん…どうやって?」
「そこなんですよね…幻術で…と言っても、ここまで広く広がってると…」
璃尾狐が考え込むよう、目を閉じた。
「まさか、とりあえずでここまで広範囲の幻術使うとは思わなかったからね…」
「すみません杏ちゃん…久々に力使って、加減間違えました」
苦笑しながら謝る綾子に、誰も文句を言うものはいなかった。
様々な理由で集まったこのコミュニティーで、少なからず、その不安定な強すぎる力で、
本来の居場所から溢れた者たちの集まりでもあるため、それぞれ力を持て余すかのよう、
コントロールが効かないことも少なくはなかった。
特に外界へ出ている影響か、はたまた元来の不器用さからか、綾子の力は暴走気味に作用することも多々あった。
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