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この世界には沢山の人がいる
そして、その人達の中にもその人だけの色んな“世界”がある

このお話は、その内のひとつの“世界”のお話――――――








Ep.1 不思議な出会い










「いってきまーす!」                                             



私、亜門梅流
つい先日念願だった名門校、私立盟王学園に入学したばかり
始めは友達が出来るか不安だったけど、みんな気さくでいい人たちばかりで…


最近は学校に行くのがすごく楽しみなの
いつも通り、上機嫌で通学路を歩いていた時だった




『メル…』



「はい?」


誰かに名前を呼ばれた気がして振り返る
でも、そこには誰もいなかった

変だなぁ、と思ってまた歩を進めた時だった



『メル』


私はもう一度辺りを見渡した
勿論、先程同様誰もいない

でも、空耳じゃない

確かに私を呼ぶ声が聞こえた
“メル”という名前はこの辺では私くらいしかいないもん


「誰の声だろう…きゃっ!?」


ゴォッと強い風が吹く
慌てて広がるスカートを押さえた
誰もいないけどやっぱり恥ずかしいもの…
風が通り過ぎて行く瞬間にまた声が聞こえた

今度は私の名前を呼ぶだけの短いものじゃなくて、少し長めのものだった




『放課後、皿屋敷町の教会で待ってるから』




「…え!?」


皿屋敷町の、教会…?
聞き間違いなんかじゃない
はっきりと“声”がそう言ったんだもん

――不思議と、その声に恐怖は感じなかった

いや、むしろ懐かしいような…?



「…わっ、もうこんな時間!?」


携帯の時計には8時30分と刻まれていた
なんでだろ、さっきまで10分くらいだったのに!?

学校までは軽く見積もっても30分はかかる
門が閉まるのは9時丁度…

私は半泣きになりながら通学路を全力で走ったのだった―――…







******************************




「おはよー、遅かったね梅流」

「お、おはよう、由子ちゃん…」


ぜぇぜぇと息を切らしながらよろよろと席につく
な、なんとか間に合ってよかった…!!


「珍しいじゃない、アンタが遅刻するなんて」


前の席に座っている由子ちゃん―新しく出来た私のお友達―が身体をひねって私に向き合う
うーん…本当のことを言ったって信じてもらえない、よね…


「ちょっと、寝坊しちゃって」

「へー、そんなこともあるのね。そういえば…」


由子ちゃんはチラリと視線を違う方へ向けた


「南野くんも、まだ来てないわね」


その名前を聞いて思わずドキリとする
南野くん、というのは私のクラスメイトのことだ
本名は南野秀一くん
学年トップの成績で入学式の新入生代表も彼が選ばれた
それでいて、スポーツ万能で人当たりもよくて…顔も、すごくカッコイイ

そんな彼を女の子達が放っておく訳はなく、早くもファンクラブなるものが作られたらしい


「そう、だね…」


私は苦笑混じりに由子ちゃんに言った
南野くんのことは、よく知らない
誰にでも優しいけど、でも――――どこか他人と壁を作ってるような気がする
ミステリアス、と言うのだろうか

確かに南野くんはカッコイイと思う
でも、恋愛感情はない
ない、けど…何故だか、彼が気になる時がある
彼を見てると何かを思い出しそうで…


どこかで会ったこと、あったっけ?
あれ?この感覚、さっきも感じたような…??


そんな事を考えている内に1限目を告げるチャイムが鳴った――――




*************************





学校が終わってから、今朝のことを思い出す
あの風の音に混ざって聞こえた“声”

声の主は解らない
でも、その声の主は私のことを知っている

気のせいだと思いたい私と気のせいだと思えない私とが心の中で争っている

気付いたら私の足は駅へと向かって歩いていた
皿屋敷町は電車で二駅の距離だ

電車に揺られている間にも、その“声”の主について考えてしまっている





『メル…』



「!」

ハッとして辺りを伺う
確かに声はした
でも、あの時とどうようにやっぱり姿は見えない


(あなたは誰なの…?どうして私を知っているの?)


私に声が届くなら、私の声もあなたに届くかもしれない
そう思って逆に問いかけてみるけど、返事は無かった



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