9-2




綾子「私、気付いたんです…
魔法少女にとって1番大事なのは"誰か"を想い、守りたい気持ち”…そう!!
つまりは"愛"だと!!」

杏「はぁ…」

綾子「その為にはやはり愛を誰かと育むのが1番手っ取り早いんではないかと私はですね…!」

璃尾子「すごい…綾子さんがイキイキしてる…」

綾子「という訳でですね、南野くんを始めとした男の子達にも声をかけときました★」

梅流「ふぇええええええ!!??」

海里「も、もう声かけちゃったの!?」

夏香「はわわわわ…!!」


綾ちゃん仕事早い…!
じゃなくて!!
それってつまり、南野くんと合宿もとい旅行に行くってこと…だよね?
わ、わ…!!
どうしよう、そう考えたらすっごく恥ずかしくなって来ちゃった…!!


綾子「あ、因みにポロリって言うのはですね、変身する時に脱g」

麻菜「シャラぁップ!!!!」

綾子「ブッフォ!!!」


どこからともなく取り出したハリセンが綾ちゃんの顔面にヒットする
…まあ、確かに変身する時は…は、裸になる、けど…!!

っていうか、それ以前に!


梅流「み、南野くん、OKしちゃったの!?」

綾子「あ、ハイ。二つ返事でOKでしたよ。他の子達も。あ、でも杏ちゃんの彼氏はテニス部の大会が近いとかで駄目だったよ〜」

杏「よ、余計な気を回さなくていいから!!」


用意周到すぎる…さすが綾ちゃん
っていうか杏ちゃんカレシいたんだ…どんな人だろう?


麻菜「はあ……もういい。もう突っ込む気力も失せた…」

夏香「それで、どこへ行く予定なの?」

綾子「ふふふ〜〜それは勿論!海!海ですよ!海水浴!BBQ!」

璃尾子「BBQ…!」

海里「あ…そこ反応するんだ…」

梅流「でも…いいね、旅行!楽しそう!」

杏「まぁ、否定はしないけどね…」

綾子「来週出発する予定だから、みんな水着忘れないでくださいねー!」


そうして数時間後に解散となった
一応、粗方の情報交換はし終わったから大丈夫だと思う
現状を整理する

・アルギュロスには"四天王"と呼ばれる4人の幹部がいる(部下はいない)
・桜雫と銀来はそのメンバーだったけど、現在は銀来が離脱してこちら側にいる
敵か味方かは不明
・銀来の正体は私たちの前世を守っていた神狼族
過去の魔法少女とアルギュロスとの戦いの事も知っている可能性が高い
・おそらく"ボス"にあたる人物がいる
・桜雫、銀来以外のメンバーについては不明

…大体こんな感じかな?
銀来の他にも私たちの前世を知る人たちがいるかも知れない
…すごく今更な事なんだけど、私は…ううん、私たちは自分の前世の事をよくは知らない
時々、どこか懐かしい感じを覚えるだけで詳細は覚えていないのだ


梅流「うーん…」

ミリィ『梅流?どうしたの?』

ミリィが心配そうに見上げてくる

梅流「あ…っ、ううん、何でもな…」


その時だった
私のケータイがバイブレーションと共に部屋に鳴り響く
ミリィに謝りながら慌ててケータイを取る
画面を見ると、知らない番号からだった

…なんだろう
胸騒ぎがする

でも、悪い感じじゃなかった
どこかで期待していたような、そんな感覚
いつもなら出ることは無いんだけど…
その時ばかりは思わず応答ボタンを押してしまった



『――――もしもし?」


電話越しに聴こえたのは凛とした綺麗な声
…私の、好きな声


梅流「南野…くん?」


電話の相手は南野君だった
いつもだったら緊張しちゃって何も話せない筈なのに、どういう訳か今の私はビックリするくらい落ち着いていた


秀一『ごめんね、こんな時間に。ビックリしたよね』

梅流「ううん、そんな事ないよ…!でも、どうして私の番号…」

秀一『許可なく掛けるのはやっぱり気が引けたんだけど…どうしても気になってね。番号は綾子から聞いたんだ』


綾ちゃんから…?でもそんな事、彼女からは聴いていない
まぁ、あの子の事だから私を喜ばせようと思って敢えて黙っていたんだろうなって憶測する
明日辺りネタにされそう…


梅流「えっと…気になること、って?」

秀一『うん…ここ最近、亜門さん元気ないからさ。いつも笑顔の人だったから。…もし何か困っている事があったらオレで良ければ相談に乗るよ』


優しい声音でそう言われる
南野くんからこんな事言われるなんて夢にも思わなかった
不意に顔が熱くなる
心臓がすごくうるさい
――――ああ、私はやっぱりこの人が大好きなんだな
そう改めて実感する

でも…だからこそ、苦しい
好きな人がせっかくこう言ってくれているのに私はそれに応える事が出来ない
だってそれは…南野くんを危険に巻き込むかも知れないから
私達の事は誰にも知られてはいけないから…


梅流「…優しいね、南野くん」

秀一『そんな事ないよ。だって、君は―――…いや、なんでもない』

梅流「…っ!…ごめんね、でも私なら大丈夫だから…そう言ってもらえるだけで、凄く嬉しい…」

秀一『亜門さん……ごめん、時間取らせちゃったね。でも本当に困ったことが有ったら相談して欲しい。愚痴でもなんでも聞くからさ』

梅流「うん…!ありがとう…!」

秀一『来週の旅行、楽しもうね』

梅流「うん!!」


来週は南野君も一緒の旅行があるんだ
こんな所でへこんでる姿なんて見せられない
元気いっぱいで応えると彼は少し笑ってから静かに電話を切った
私はそれを待ってから同じように通話を切る


ミリィ『よかったじゃない、梅流!電話番号交換出来て』

梅流「う、うん…えへへへ…あっ、と…もうそろそろ寝ないと…!明日、みんなで水着買いに行くんだ」


ベッド脇のルームライトを消す
今日は色んな事があった
今更ドッと疲れが来る
そして私は泥のように眠るのだった―――……



――――――――――――――――
――――――――――――



―――気付いたら、真っ白い空間にいた
私…なんでこんな所にいるんだろう
壁も天井もない、ただただ純白のそこは嫌に寂しく思えた

一歩、足を踏み出す

すると、背後から声が聞こえた
誰だろう
でも、どこか懐かしい―――男の人の声だった

振り返るとそこには一人の銀髪の男性が疼くまっていた
いや、よく見るとその腕に誰かを抱えている
銀色の髪が紅い血に塗れている

腕に抱えられている人は分からない
黒いモヤに包まれていて、顔も身体も性別も認識できない

男の人はもう一度、寂しそうな声で誰かの名前を呟いた


―――――――"■■…!"


―――――――そこで、眼が覚めて慌てて飛び起きる
嫌な、夢だった
汗がぐっしょりと衣服に貼り付いている
傍らの時計に目を向けるとまだ夜中の3時だった
ミリィもぐっすりと眠っている
不意に南野君の言葉を思い出す

――――もし何か困っている事があったら――――

…ううん、駄目だよ
こんな事、南野君には言えない 言ってはいけないと、そう思った

もう一度眠ろうとするもなかなか寝付く事が出来なかった



――――――――――――――――
――――――――――――



麻菜「―――夢?」


次の日、私は昨夜見た夢の事を皆に話してみることにした


梅流「うん…なんというか、雰囲気的に前世に関係あるんじゃないかって思って。皆はそういう夢って見た事ある?」


私の問いかけに皆一様に首を横に振った


ミリィ『前世の記憶なら私達も知っている筈だけど…梅流が言うような男の人は見た事がないわね』


ミリィ達もうーんと首を傾げて不思議そうにしている


琉紅「銀来なら何か知ってるかもしれない、けど…」


琉紅ちゃんがチラリとバスケットに入った銀来を見やる
彼は未だに眠り続けていた


海里「その人、どんな感じの人だったの?」

夏香「怖いとか、優しそうとか…」

梅流「う〜ん…」



脳裏に焼き付く、悲しそうな声
愛しそうに名前を呼ぶ、その姿



梅流「怖いとは感じなかったな…でも、凄く悲しい気持ちが伝わってきて…起きたら心臓バックバクで寝汗酷かったから、きっと前世的には嫌な夢なんだと思う」


きっとこの感情は"私"であって"私"のモノじゃない
これはきっと――――


梅流「……"瑪瑠"……」


ポツリと自然と口をついて出た名前
ビックリしたように皆がこっちを見る


梅流「きっとアレは…"瑪瑠"の記憶なんだ」


瑪瑠――――私の前世
私であって、私でないモノ
貴女はあの人とどんな関係だったの?
あれが貴女の記憶だというなら、あの人が抱えていた人は誰だったのだろう

瑪瑠…これは、貴女の痛みなの?


イタイ、イタイ、イタイ―――…
瑪瑠の悲鳴が聴こえる
私は…私は、どうしたらいいんだろう――――





――――――――――――――――
――――――――――――



湿っぽい地下室に肌を打つ乾いた音と喘ぎ声が響いている
床下に留まるのは"少女"から滴り落ちる汗と血
少女の両手は戒めとしての鎖が巻き付いており、その小さな体を天井から吊るしていた

少女―――桜雫はギッと眼前の"女"を睨み付けた

艶やかな雰囲気を纏った女は紅に彩られた唇を舐め上げて嗤う
その様子に忌々し気に顔を歪める
細い白魚のような指が桜雫の顎を捕らえる


「ふっ…随分と反抗的な態度じゃの。今の自分の立場が解っとらん様じゃな…任務を失敗しただけでなく、戦力まで欠くという失態。
生かして貰っているだけありがたいと思え」

「…んな、生き恥を晒すくらいなら、…死んだ方がマシだ…!」


刹那、女の持つ鞭が風を切り桜雫を打つ
バシィッ!と、鋭い音が響いた


「ぅあ…っ!!」

「口の利き方には気を付けよ、小娘…この"女尾羽"、今度は手加減出来ぬやも知れぬぞ?」


そう言うと女―――"女尾羽"がパチンと指を鳴らす
女尾羽の足元からジュクジュクと緑色の植物のような触手を纏った妖怪――通称・葉緑獣――が現れる
キィキィと甲高い声で喚きながら体液を撒き散らすソレは餌を寄越せと強請っているようにも見えた
葉緑獣の触手が桜雫の足へ絡みつく


「……っ!!」


桜雫が息を飲んだ時だった




「――――その辺にしておけ」



凛とした男の声が聞こえた
その声に反応したのか、葉緑獣はゆっくりと逃げるように地面へと戻って行った
男の姿を視認した女尾羽は猫撫で声で男の名を呼び、しな垂れかかる
豊満なボディは普通の男ならば我慢ならない凶悪なモノだろう
しかし、眼前の男はそのようなモノ一切興味がない
女尾羽が蠱惑的に指先を男の頬へと移動させる
桜雫は嫌悪感たっぷりの表情で一連の動作を見ていた


「桜雫」

「…んだよ」


男が桜雫の名前を呼ぶ
がしゃん、と鎖が外れて両手が解放される
呆然とする桜雫を尻目に小さなカケラ――フィクシドスターを投げて寄越した


「これで最期だ。次は無いと思え」


その言葉が何を意味するか…分からない程馬鹿じゃない
女尾羽が何やら喚いていたがどうでもいい
今の自分にはコレが全て
コレで終わり

桜雫はフィクシドスターをギュッと握り締めると男を見上げた


「いいぜ…!!何だってやってやるよ…!そんで…、」



――――全部全部、ぶっ壊してやる…!









靄が掛かった世界
何も見えない世界
全てを忘れた世界
思い出が、願い事が、涙が、闇へと消えていく

少女のナカに残っていた切なる想いが今、灰となって消えて逝った――――……





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