3-2




悪寒を感じて空を見上げると、あり得ないその空間に亀裂が入っていた


「な…!?」

「…!」


異様なその光景に亜梨姉は目を見開く
次第に亀裂は広がっていき、そこから現れたのは真紅の鋏を持つ――――蠍型のフィクシドスターだった


『あれは、アンタレスのフィクシドスター…!』

(どうしよう、亜梨姉が…!)

『待ってて、梅流!私もすぐそっちに向かうわ!』


まずは亜梨姉を安全な場所に逃がさなきゃ!
私は亜梨姉の手を取って走り出した


「梅流!?」

「亜梨姉、こっち!」




――ドゴォォォォン!!!――

アンタレスが亀裂を破って地面に着地する音が聞こえる
私は無我夢中で走り続けた
公園のトイレに亜梨姉を匿う


「さっきの化け物…なんなんだ、あれは」

「…待ってて、亜梨姉!」

「ちょ…ッ梅流!お前、何をするつもりだ!?」


パシッと亜梨姉が私の手を掴んで引き止める
その瞳が不安の色で揺らぐ
私はやんわりと自らの手でその手を包み込んだ

優しい亜梨姉の手
どんな時も、私を守ってくれた――――



「――――大丈夫、亜梨姉。今度は私が亜梨姉を守るから」



そっと亜梨姉の手を外すとトイレの外に出る
ポケットからローズクォーツを取り出し、声高に叫んだ



「エネルゲイア・ローズクォーツ!!」


カッと辺りを目映い光が包み込む
髪は白銀へ、纏う服は魔導士のそれへと変わる



「――――行くよ!!」


高く地面を蹴って飛び上がる
背中に白い光の羽根が生え、空中で留まる


「セント・リングアロー!」


桃色の光はアンタレスに諸に直撃した
でも…その固い装甲を破ることは出来なかった
刹那、風を切る音が耳に届く
気付いた時には遅かった


「きゃあッ!!」


アンタレスの長い尾が私の身体に絡み付く
解こうにも強い力で解けない
眼前には毒のある尻尾――――


「…!!」


思わず目をギュッと瞑った時だった




「――梅流ッ!!」


亜梨姉が信じられないと言った表情でこちらを見ていた


「亜梨姉…ッ!来ちゃだめ…!」


正体がバレるとか、そういうのは考えなかった
ただ亜梨姉を守る事に必死だったから――


「この化け物…!梅流を離せ!!」

「亜梨姉!!」


亜梨姉がアンタレスの方へと向かって来る
アンタレスが標的を変え、ゆっくりと動き出す
だめ…!亜梨姉が危ない!!


その時、亜梨姉の前にミリィが降り立った


『やっぱりね、あなたは第二魔導士妖狐“亜梨馬”の生まれ変わりよ』

「え…っ!?」


いきなり目の前の猫が喋ったのを見て、驚かない人はいない
亜梨姉は訝しんでミリィを見た


「なんだ、お前――」

『瑪瑠を助けたいのでしょう?』


そう言ってミリィは亜梨姉に…チャームを渡した


『それを掲げて、“エネルゲイア・アメジスト”って叫ぶの
そうすればあなたは魔導士の力を得る事が出来る…
あのアンタレスとも対等に戦えるわ』

「何、言って…!」


亜梨姉の瞳に不安の色が見える
ギュウッと締め付ける尻尾の力が強まって息が出来なくなる


「う…ッ!ぐぅ…ッ!!」

「梅流!」

『さぁ、早く!瑪瑠を助ける為にはこれしかないわ!』


私と、ミリィとを交互に見やる
そして、意を決したようにチャームを掲げた



「エネルゲイア・アメジスト!!!」



紫色の光がチャームから溢れ出し、身体を包み込む

胸を、腰を、腕を、脚を、光が包んでいき、魔導服へと変わって行く

茶色の髪は白銀の髪となり風に靡く


そっと瞳を開くと――真紅の瞳





「――――第二魔導士妖狐亜梨馬。いざ、参る」





助走を付けて飛び上がると、その手に氷の刃を生成し、アンタレスの尾を切り刻む
アンタレスはけたたましい悲鳴を上げ、苦しそうにもがいている


「きゃ…ッ!?」


地面に落ちる寸での所で亜梨姉が受け止めてくれた


「亜梨姉…!」

「お前は昔からそうだよ。いっつも無茶ばっかりで…心配ばっかり、かけて」


そう言って亜梨姉は微笑んだ
それからキッとアンタレスを睨みつける


「よくも、俺の妹を傷つけてくれたな?この罪は…重いぜ!」


亜梨姉の手に紫の光の刃が現れる
それを手に、アンタレスへと真っ直ぐに向かって行く




「――――ブリザード・ブレイド!!」



一閃――――刃がアンタレスを切り裂いた
その瞬間、音を立ててアンタレスが凍り付いていく


そして――――目映い光に包まれ、アンタレスは星形の宝石へと戻った



暗く淀んでいた空間も、静かすぎる世界も元に戻って行く




「亜梨姉…」


私の呼びかけに亜梨姉はゆっくりと振り向いた
真紅の瞳に私が映る



「結局…亜梨姉に守られちゃったね」

「何言ってんだ。姉が妹を守るのは当たり前だろう?」




そう言って、私たちは互いに笑い合った――――









――――――残りの魔導士…6人





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