第参話-2
丁度その時、扉を叩く音がして、麓が顔を出した
麓「お前たち、今夜は一晩中吹雪だ。出かけるなら、明日にしろ」
瑪瑠「は〜い!あ!という事は、今日はみんなでお泊り会だね!」
瑪瑠がピョンピョンとその場で跳ねる
皆と過ごせるのが余程嬉しいらしい
亜梨馬「瑪瑠の家に泊まったことは何回かあるが…」
海里「こんなに大人数で泊まるのは初めてですね」
なつ「夜はやっぱり枕投げか怖い話だよね!」
崇樹「瑪瑠ちゃんのお部屋広いですしね。思いっきり体を動かせそうです☆」
璃尾狐「ご飯も皆一緒?」
瑪瑠「もっちろん!一緒に大広間の所で食べよっ♪」
杏「お風呂はどうする?別々?」
瑪瑠「皆一緒だよ〜♪」
琉紅「う…!わ、私、スタイルよくないので、お風呂は…」
瑪瑠「むっ!だめ!琉紅も一緒に入るの〜!」
琉紅「は…はぁい…」
楽しそうにする8人に釣られ、麓も柔和に微笑む
それから夕飯の前に入浴するように勧めた
長の住む屋敷の浴槽はとても大きく広い
8人で入っても十分スペースが余るほどだ
瑪瑠「じゃぁ、さっそくいこっか!」
瑪瑠が先頭をきって皆がその後に続く
長く続く渡り廊下の窓から見える外は、木々を薙ぎ倒さんばかりに吹雪いていた
璃尾狐「すっごい吹雪…」
杏「さすがに八岐大蛇も冬眠してるんじゃない?」
崇樹「まっさかぁ〜…っていうか八岐大蛇って言い難くありません?大蛇丸とかでよくない?」
亜梨馬「アウトだろ…」
しばらく歩いていくと、豪華な装備の浴場に辿り着いた
ご丁寧に女湯と男湯に別れたそこは、まるでちょっとした旅館のようだ
中へ入るとふわりと甘い香りが鼻孔をつく
海里「瑪瑠ちゃん、この匂いって…」
琉紅「あ、さっき言ってた…」
海里が瑪瑠にそう問い掛けると、瑪瑠ははにかんだような笑みを浮かべた
広い洗面台の傍らに飾ってある花瓶に生けられた華を愛しそうに撫でる
瑪瑠「…うん。蔵馬から貰ったんだ!ほら!」
そう言って浴場の扉を開ける
大きな浴槽に張られた乳白色の湯船と、その上を覆い尽くさんばかりの薔薇の花びら
周りの装飾品にも薔薇があしらってある
紅、桃、白、黄…そして、繁殖が難しいとされる青色の薔薇など、色とりどりの薔薇がそこかしこにあった
亜梨馬「すごいな…」
海里「わ〜…!きれ〜い!」
瑪瑠「人間界の薔薇だと湿気に晒されるとすぐに駄目になっちゃうんだけどね、ここの薔薇は蔵馬が特別に作った薔薇だから…」
崇樹「相変わらずラブラブですね☆」
瑪瑠「す、崇樹ちゃん…!」
薔薇と蔵馬について話す瑪瑠はとても幸せそうで、嬉しそうだった
ここの薔薇も、自室に飾ってある薔薇も彼女が毎日丹念に世話をしているのだろう
蔵馬が特別に作った薔薇だという事を差し引いても、その美しさは決して色褪せる事はなかった
植物は人の『愛情』が解ると言う
彼女が如何に彼らを大切に育てているかは一目瞭然だった
璃尾狐「これだけ広いと泳げそうだね」
杏「こらこら、お風呂で泳いじゃ駄目だよ」
なつ「スゴ〜イ!良い匂いだし、肌すべすべになりそう!」
瑪瑠「蔵馬がね『色々な効能がある』って言ってたから、お肌以外も肩こりとか腰痛にも効くし髪もサラサラになるんだって」
琉紅「肩こり腰痛…これはいっぱい浸かっておかないとですね…」
亜梨馬(…この子何歳なんだろう)
海里「ねぇねぇ、この石鹸、薔薇の花びらが入ってる!」
崇樹「あ、本当!これも蔵馬さんが作ったんですか?」
瑪瑠「うん!そうだよ!」
アロマ効果も具えているであろう優しい香りが浴槽を包む
無意識に心が、和やかになっていく
外は相変わらず激しい吹雪だったが、そんな事も気にならないくらいに
にぎやかな入浴時間は、短いようで長いように感じられた
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