伍 夢幻




僕は君の事が好きだった



君が望むことなら何だってしてあげる
君を守る為なら何だって出来る



そう思っていた筈なのに



この想いは狂った歯車のように、間違った動きをしていって

君の隣にいることも、今の僕には叶わない



それでも僕は



君の事が 好きだった












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昼休みを告げるチャイムが鳴る
数学教師が慌てて授業を切り上げる


「今日やった所は次回のテストに出るからな、ちゃんと予習しておけよ」


そう言って教室を去って行くと生徒達は待ってましたとばかりに各々昼食をとり始めた



「よぉ、杯、だっけ?」

「ちょ、阿倍…!」


紫髪の少年―阿倍月雨が飄々と今日来たばかりの転校生に話しかける
それを焦った様子で琉那が止めようとするが時既に遅し


「ん?」

「なぁ、オレ等と一緒に昼飯食おうや」


どのような返事をするのか
呆れた様子の琉那
苦笑する紅光
面倒臭そうな丁

各々違う反応を見せるが、考えていることは大体一緒だった
桂は4人を見渡すと人懐っこい笑顔を見せた


「ああ、いいぜ!」

「おー、ほんなら屋上にでも行こうか。ほれ、行くで丁!」

「ちょ、なんでオレまで…」

「あんな〜コイツこんなぶっきらぼうやけど、本当はただ恥ずかしがり屋なだけやから!」

「ある事ない事吹き込んでじゃねーよ!!」

「ブッ…!あはははははは!!面白いな、お前ら!」


2人のやり取りに桂は目尻に涙を浮かべながら笑った
紅光はその光景を微笑ましく見詰めると、スッと琉那に手を差し出した
思わずドキッとする琉那


「な、なに…?」

「私たちも、昼食にしよう」

「…うん!」

「すまない、3人共。私たちも一緒に食べてもいいかな?」

「ちょ、コイツらと一緒に食べるのー!?」



てっきり2人っきりだとばかり思っていた琉那は大きく落胆した様子だった



「えーー南野はいいけど、浦飯さんはちょっと…」

「なによ、十干!こっちだってアンタ達となんてお断りよ!」

「そうやで、丁!女の子は大事に扱わんとやで!」

「アンタも含まれてるのよ!」

「なん…だと…?」


「なぁ、コイツ等いつもこんな感じなの?」

「ああ、大体な」

「…ふーん、なんだか楽しそうだな」


そう言った桂の顔はどこか寂しそうに見えた
その時、グイッと丁と琉那が桂の腕を掴んだ


「いいからさっさと行こうぜ、杯。浦なんとかさんが怒る前によ」

「既に怒ってるわ!行こう、桂!」



2人に連れられ、屋上へと向かう
その背中を紅光と月雨が慌てて追いかけた――――――…












*************************







青い空に白い雲がゆったりと流れて行く
少し風が強いのだろうか
いつもより、雲の流れが早いように感じた






「あ、南野の卵焼き美味そうやな!」

「お袋さんの手作りか?南野の家の飯美味いよな」

「良かったらひとついるか?仲良く分けろよ」

「「コイツと仲良くはちょっと…」」

「何気にハモってるじゃない…」

「なんだかんだ仲いいんだな、お前ら…えっと、」


桂は少し考える素振りを見せる
彼の思ってる事を察した紅光が口を開いた


「そういえば、自己紹介がまだだったな。私は南野紅光だ」

「あ、そうやな。なんか朝もバタバタしとったしな〜オレは阿部月雨。考えたくもないけどそこの赤毛の親戚や」

「それはこっちの台詞だハゲ!あ、オレ十干丁。オレ等これ一応地毛だからな」

「浦飯琉那。基本的に午前か午後の授業は出ない」

「それほとんどじゃね?」

「要するにさぼり癖があるんだよ、この女は」

「不良や不良」

「っさい!あんた達に言われたくないわ!」


放っておくとまた一悶着起こしそうな3人をやんわりと宥める紅光


(この3人が乱闘でもしたら、ひとたまりもない…)


心の中で苦言する紅光だったが、彼も実はそれなりである
怒ると4人とも周りが見えなくなる性質なのだ




「いいな、お前らって」


「ん?」


不意に洩らした言葉
桂にとっては何気ない一言だったが、どことなく意味があるものに聞こえる


「楽しそうだなーって。少し羨ましい」

「…ふふ、そうだな。――それに、琉那も丁も月雨も、来るものは拒まない。無論、私もだが」

「?」

「君が何か困ってることがあるのなら、どんな事でも助けになろう。“友達”とは、そういうものだからな」


先程まで口論をしていた3人がぴたりと口論をやめて紅光と桂を見る
桂は少し呆気にとられたようだったが、すぐに照れくさそうに頭の後ろを掻いた


「うーん…ばれちゃった?」

「なんとなくだがな。何か、悩みでも?」

「うーーん…」



5人の上に雲が影を作る
見ると、先程まで真っ青だった空はどんよりと曇り始めていた





「お前らさ、」






一拍置いて桂が口を開いた












「神様って、信じる?」







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